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婚約破棄を告げられたら『退職金はありますか?』と聞いてしまった、前世が人事部だったので

作者: 夢見叶
掲載日:2026/02/10

「エリアナ、君との婚約は破棄させてもらう」

 舞踏会の控室で、婚約者のルシウス様がそう告げた。隣には美しいブロンドの令嬢、シルヴィア様が立っている。

 ああ、そういうことか。

 私は小さく息を吐いた。


「分かりました。それで、退職金はありますか?」

 その場が、凍りついた。

 ルシウス様は目を見開き、シルヴィア様は口をぽかんと開けている。控室の隅で野次馬をしていた令嬢たちも、ざわざわと囁き合う。


「た、退職金......?」

「はい。通常、雇用契約を解除する際には、勤続年数に応じた退職金が支払われますよね? 婚約期間は六年でしたから、相応の金額を......」

「エリアナ、君は何を言っているんだ?」

 ルシウス様が困惑した顔で私を見る。

 (あ、しまった。この世界には退職金の概念がないんだっけ)


「失礼しました。慰労金、でしょうか。婚約を解消するにあたって、これまでの期間への感謝の印として......」

「君は、婚約破棄されて怒らないのか?」

「怒る? なぜですか?」

 私は首を傾げた。

 だって、ルシウス様の言い方は、前世の上司のパワハラと比べたら100倍優しいもの。

 「君のためを思って」だなんて、丁寧に理由まで説明してくれるなんて。前世では「明日から来なくていい」の一言で片付けられた人を何人も見てきた。


「ありがとうございます。円満退職......もとい、円満破棄で良かったです」

 私は深々とお辞儀をした。

 ルシウス様とシルヴィア様は、ますます困惑した表情になる。

 その時、控室の扉の近くに立っていた男性が、小さく笑ったのが聞こえた。

 振り向くと、黒髪に銀色の瞳を持つ、冷たい印象の貴族が私を見ていた。

 (あの方は確か......ヴィクター・アッシュフォード公爵?)

 国内最高位の貴族で、冷徹で近寄りがたいと噂の人物。

 なぜか、その方の目が、興味深そうに私を見つめていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 控室を出た後、私は一人で庭園のベンチに座っていた。

 (さて、これからどうしよう)

 婚約が破棄されたということは、実家に戻ることになる。

 姉のアリシア様は美人で優秀で、社交界の花形。私は地味で目立たない次女。いつも比べられて、「もっとアリシア様を見習いなさい」と言われ続けてきた。

 でも、前世を思えば、これくらいなんてことない。

 前世では、ブラック企業の人事部で働いていた。

 毎日、誰かにリストラを通告する仕事。月に二十人以上に「退職勧奨」をして、泣かれて、怒鳴られて、時には物を投げられた。

 そして上司からは、「お前の言い方が悪い」「訴えられたらどうするんだ」と毎日罵倒される。

 残業は月に百時間超え。休日出勤も当たり前。家に帰れない日もあった。

 そんな生活を十年続けて、三十二歳のある日、会社で倒れてそのまま......。

 目が覚めたら、異世界の貴族令嬢エリアナ・ノーブルに転生していた。

 最初は混乱したけれど、すぐに気づいた。

 (ここは、前世より100倍マシだ)

 家族に比較されるといっても、面と向かって罵倒されるわけじゃない。

 婚約者が冷たいといっても、パワハラ上司に比べたら天使のよう。

 そして何より、残業がない。定時に休める。休日がある。

 (天国か、ここは)

 だから、婚約破棄も全然平気だった。

 ルシウス様の言い方は丁寧だったし、「君のため」という理由まで添えてくれた。前世なら、一方的に通告されて終わりだったのに。

 「円満破棄で良かった」というのは、本心からだった。


「失礼ですが、先ほどの『退職金』について、詳しく聞かせていただけますか?」

 突然、声がした。

 顔を上げると、先ほどの公爵様......ヴィクター・アッシュフォード様が立っていた。


「あ、はい。えっと......」

 (まずい。転生のことは言えない)


「昔、人事の仕事を見たことがありまして。その時に、雇用契約を解除する際の手続きについて学んだんです」

「人事の仕事?」

「はい。人を雇ったり、辞めさせたりする仕事です。契約期間、労働条件、退職金の計算......そういったことを扱う部署です」

 ヴィクター様は興味深そうに頷いた。


「なるほど。それで、婚約を雇用契約と同じように考えたわけですか」

「あ、はい。婚約って、ある意味で契約ですから。双方が合意して結び、解消する際にも手続きが必要で......」

「面白い。普通の令嬢は、婚約破棄されたら泣いたり怒ったりするものですが」

「そうなんですか?」

 私は首を傾げた。

 (だって、あんなに丁寧に説明してくれたのに、怒る理由がない)

 ヴィクター様は、小さく笑った。


「あなたは、本当に不思議な人だ、エリアナ嬢」

 その笑顔が、なぜか少し優しく見えた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 実家に戻ると、案の定、姉のアリシア様が待ち構えていた。


「エリアナ! 婚約破棄だなんて、家の恥よ!」

「ごめんなさい、お姉様」

「あなたが地味で魅力がないから、ルシウス様も愛想を尽かしたのよ」

 (うーん、でも前世は顔すら見られない日々だったし、これくらい平気)

 母も溜息をついた。


「まあ、仕方ないわね。慰謝料はいただけるの?」

「それが、『退職金はありますか?』と聞いたら、変な顔をされまして......」

「退職金!? エリアナ、あなた何を言っているの!?」

 姉が絶句する。


「婚約解消にあたって、何らかの金銭的な補償があるのが通常かと思いまして」

「もういいわ! とにかく、しばらくは大人しくしていなさい!」

 姉は呆れた様子で部屋を出て行った。

 一人になった私は、ベッドに横たわった。

 (さて、これからどうしよう)

 このまま実家で暮らすのも悪くないけど、できれば何か仕事をしたい。

 前世では仕事ばかりの人生だったけど、働くこと自体は嫌いじゃなかった。理不尽な上司と過酷な労働環境が問題だっただけで。

 (この世界で、女性ができる仕事って何があるんだろう)

 そんなことを考えていると、使用人が手紙を持ってきた。


「エリアナ様、ヴィクター・アッシュフォード公爵様からお手紙です」

「え?」

 封を開けると、美しい筆跡でこう書かれていた。


『エリアナ嬢


先日の会話、大変興味深く拝聴いたしました。


もしよろしければ、私の図書館で働いていただけないでしょうか。


書物の整理や目録作成など、あなたの「人事」の知識が役立つと思います。


詳しくはお話ししたいので、明日の午後、私の屋敷までお越しください。


ヴィクター・アッシュフォード』


 (就職のお誘い!?)

 私は思わず立ち上がった。

 (面接だ。これは面接のチャンスだわ!)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 翌日、私はヴィクター様の屋敷を訪れた。

 豪華な公爵邸に緊張しつつ、応接室に通される。


「よくいらっしゃいました、エリアナ嬢」

 ヴィクター様が優雅に微笑む。


「お招きいただき、ありがとうございます」

「早速ですが、私の提案について。図書館の整理を手伝っていただきたいのです」

「はい!」

 (仕事がもらえる!)


「それで、試用期間はありますか? 福利厚生は? 勤務時間は?」

 ヴィクター様は少し驚いた顔をしたが、すぐに笑った。


「試用期間は一ヶ月。勤務時間は午前十時から午後四時まで。昼食と休憩時間あり。報酬は月に銀貨五十枚」

 (六時間労働!? しかも昼休みあり!? 天国か!)


「素晴らしい条件です! ぜひお願いします!」

 私は勢いよく頭を下げた。


「そんなに喜んでいただけるとは」

「はい! 前......以前見た職場は、労働時間が十二時間以上で、休憩もろくに取れませんでしたから」

「それは過酷ですね」

 ヴィクター様は眉をひそめた。


「エリアナ嬢、あなたは本当に変わっている。でも、その前向きさは素晴らしい」

 そう言って、彼は優しく微笑んだ。

 その笑顔を見て、私の心臓が少しだけ高鳴った。

 (あれ? なんだろう、この感じ)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 翌週から、私は公爵邸の図書館で働き始めた。

 広大な図書館には、無数の書物が並んでいる。


「まずは、分類を見直していただけますか? 現在の配置が少し分かりにくいのです」

「承知しました」

 私は前世の事務スキルを活かして、効率的に本を整理し始めた。

 ジャンル別、著者別、発行年別に分類し、目録を作成する。


「これなら、どこに何があるか一目瞭然ですね」

 執事のセバスチャンが感心した様子で言う。


「公爵様がこんなに満足そうな顔をされるなんて、初めて見ました」

「そうなんですか?」

「ええ。普段は無表情で、感情を表に出されることがほとんどないんです」

 (へぇ、クールな方なんだ)

 でも、私と話す時のヴィクター様は、よく笑ってくれる。

 毎日午後三時には、お茶の時間がある。


「今日の作業はいかがでしたか?」

「順調です。明日には古文書のセクションが完成します」

「素晴らしい。あなたの仕事ぶりは完璧です」

 褒められて、私は嬉しくなる。

 (前世では、上司に褒められたことなんてなかったのに)


「ヴィクター様、一つ質問してもよろしいですか?」

「どうぞ」

「なぜ、私を雇ってくださったんですか? 婚約破棄されたばかりの、評判の悪い令嬢を」

 ヴィクター様は少し考えてから、答えた。


「あなたの『視点』が面白かったからです」

「視点?」

「婚約破棄を『円満退職』と捉え、『退職金』を求める。普通なら屈辱と感じる場面で、冷静に条件を確認する。その発想の転換が、素晴らしいと思いました」

「そんな......大したことでは」

「いいえ。あなたは、物事を多角的に見ることができる。それは、とても貴重な才能です」

 そう言って、ヴィクター様は私の手を取った。


「エリアナ嬢、あなたはもっと自分を認めてもいい」

 その温かい手の感触に、私の顔が熱くなる。

 (これって......まさか......)

 でも、すぐに否定する。

 (いやいや、これは上司の励ましよ。恋愛感情なんかじゃない)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 それから数週間、私は充実した日々を過ごした。

 図書館の仕事は楽しいし、ヴィクター様は優しい。執事や侍女たちも親切だ。

 (これが、普通の職場なんだ)

 前世の地獄のような環境とは大違い。

 定時に仕事が終わり、休日もちゃんとある。

 残業を強要されることもなく、理不尽に怒鳴られることもない。

 (天国だ......本当に天国だわ)

 ある日、侍女のメアリーがこっそり教えてくれた。


「エリアナ様、ご存知ですか? 公爵様、毎日あなたのことを気にかけていらっしゃるんですよ」

「え?」

「『今日のエリアナ嬢の様子はどうだった?』『疲れていないか?』って、私たちに聞かれるんです」

「それは......業務管理の一環では?」

「いえいえ、絶対違います! あんな優しい目で見るなんて、恋ですよ、恋!」

 (まさか)

 私は首を振った。

 (公爵様が、私みたいな地味な令嬢に恋をするわけがない)

 でも、心のどこかで、少しだけ期待している自分がいた。

 その日の午後、ヴィクター様が「話がある」と言って、私を書斎に呼んだ。


「エリアナ嬢、あなたに相談があります」

 (相談? 契約更新の話かな?)


「実は、来月の舞踏会に、あなたを同伴したいのです」

「え? でも、私は図書館員ですよ?」

「構いません。あなたには、私のパートナーとして参加してほしい」

 (パートナー......同僚ってことかな)


「分かりました。でも、私、ドレスとか持っていないんですが」

「それは私が用意します。あなたに似合う、美しいドレスを」

 そう言って、ヴィクター様は私の頬に優しく触れた。


「あなたは、自分が思っているよりずっと魅力的です」

 その言葉に、私の心臓が激しく鳴る。

 (これって......もしかして......)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 舞踏会の夜。

 ヴィクター様が用意してくれた深緑のドレスを着て、私は公爵邸の馬車に乗った。

 会場に着くと、社交界の人々の視線が私に集まる。


「あれは、婚約破棄されたノーブル家の次女では?」

「公爵様と一緒だなんて......」

 ざわざわと囁き声が聞こえる。

 でも、不思議と緊張しなかった。

 (前世では、もっと厳しい視線にさらされてきたし)

 ヴィクター様が私の腕を取る。


「緊張していますか?」

「いいえ、全然」

「相変わらず、あなたは強いですね」

 会場の中で、ルシウス様とシルヴィア様を見かけた。

 ルシウス様は、私を見て目を見開く。

 (あれ? なんか様子がおかしい)

 シルヴィア様は不機嫌そうに、私を睨んでいる。


「エリアナ、久しぶりだね」

 ルシウス様が話しかけてきた。


「ルシウス様、お久しぶりです」

「君、公爵様と......?」

「はい、図書館で働かせていただいています」

「そうか......」

 ルシウス様は複雑な表情をした。


「君は、元気そうだね」

「はい、とても充実しています」

 (定時退社、休日あり、優しい上司。最高の職場です)


「そうか......僕は......」

 ルシウス様が何か言いかけた時、シルヴィア様が腕を引っ張った。


「ルシウス様、行きましょう」

 二人が去った後、ヴィクター様が言った。


「彼は、後悔しているようですね」

「え?」

「あなたを手放したことを」

 (そうなのかな?)

 でも、もうどうでもいい。

 私には、今の生活がある。


「エリアナ嬢」

 ヴィクター様が、私の手を取った。


「私と、踊っていただけますか?」

「はい」

 ダンスフロアに移動する。

 音楽が始まり、ヴィクター様が私をエスコートする。

 優雅なステップ。優しいリード。


「エリアナ嬢、あなたに聞きたいことがあります」

「はい、なんでしょう?」

 (昇進の話? それともボーナス?)


「私の妻になってください」

 え?


「......え?」

 思考が停止する。


「これって......転職のお誘いですか?」

 周囲から、笑い声が聞こえた。

 ヴィクター様も、苦笑いしている。


「違います。私はあなたを愛しています。一生のパートナーとして、私の妻になってほしいのです」

 (愛......?)


「で、でも、私なんて地味で、取り柄もなくて......」

「それは違います。あなたは、どんな困難も前向きに捉える強さを持っている。その姿に、私は惹かれました」

 ヴィクター様が、私の両手を握る。


「エリアナ、あなたを愛しています。私の人生を、あなたと共に歩みたい」

 涙が溢れてきた。

 前世では、恋愛なんてする余裕もなかった。

 仕事に追われて、人を好きになることも、好きになられることも、諦めていた。

 でも、この世界で、こんなに素敵な人に出会えた。


「はい......はい、喜んで!」

 私は泣きながら答えた。

 ヴィクター様が、優しく私を抱きしめる。

 会場から、拍手が起こった。

 その中で、ルシウス様が呆然と立っているのが見えた。

 シルヴィア様は悔しそうに唇を噛んでいる。

 でも、もう関係ない。

 私には、ヴィクター様がいる。


「君との人生は、最高の契約だ」

 ヴィクター様がそう囁いて、私にキスをした。

 (前世でも、こんなに幸せなことなかった)

 心の底から、そう思った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 それから数ヶ月後。

 私は、ヴィクター・アッシュフォード公爵夫人として、幸せな日々を過ごしていた。


「エリアナ、今日の予定は?」

 朝食の席で、ヴィクター様が聞く。


「午前中は図書館の新刊整理、午後は慈善事業の会議です」

「無理はしないでくださいね」

「大丈夫です。これでも、前世......以前の職場に比べたら、全然楽ですから」

 (一日十二時間労働、休日なし、パワハラ上司......あれに比べたら、今の生活は天国そのもの)

 ヴィクター様は苦笑いする。


「あなたは、いつもそうですね」

「でも、本当なんです」

 私は微笑んだ。

 ある日、セバスチャンが社交界の噂話を教えてくれた。


「奥様、ご存知ですか? グレイ侯爵家が財政難に陥っているそうです」

「え? ルシウス様の家が?」

「はい。シルヴィア様の浪費が原因だとか。宝石や衣装に湯水のようにお金を使われたそうで」

「まあ......」

「結局、シルヴィア様は婚約を一方的に破棄して、別の裕福な貴族のもとへ行かれたとか」

 (そうか......ルシウス様も大変だったんだ)


「ルシウス様は、今でもエリアナ様のことを後悔されているそうですよ。『あんなに堅実で優しい人を手放してしまった』と」

 私は静かに紅茶を飲んだ。

 (でも、それも彼の選んだ人生)

 前世の人事部での経験が教えてくれた。

 人はそれぞれ、自分の選択に責任を持つ。そして、その結果を受け入れるしかない。

 私はルシウス様を恨んでいないし、シルヴィア様も憎んでいない。

 むしろ、感謝している。

 あの婚約破棄がなければ、ヴィクター様と出会えなかった。


「奥様は、本当にお優しいですね」

 セバスチャンが微笑む。


「そんなことないですよ。ただ、前世......以前の経験で、人生は予想外の方向に進むこともあると学んだだけです」

 夜、寝室でヴィクター様が私を抱きしめる。


「愛しています、エリアナ」

「私も、愛しています」

 (これが、恋愛......結婚なんだ)

 前世では経験できなかった、温かい幸せ。


「ねえ、ヴィクター様」

「なんですか?」

「これって......ワークライフバランス最高ですね」

 ヴィクター様が笑った。


「また、仕事に例えるんですね」

「だって、本当なんですもの。仕事も充実、プライベートも幸せ。完璧です」

「それなら良かった」

 ヴィクター様が、私の額にキスをする。

 窓の外を見ると、満月が輝いていた。

 (あの辛い日々があったから、今の幸せが分かる)

 前世の私へ。

 あなたが必死に耐えた日々は、無駄じゃなかった。

 その経験が、私を強くしてくれた。

 そして、この人と出会わせてくれた。


「ありがとう、過去の私」

 小さく呟くと、ヴィクター様が不思議そうに私を見た。


「何か言いましたか?」

「いえ、なんでもありません」

 私は微笑んだ。

 (そして、ありがとう、ヴィクター様)

 あなたが、私に幸せを教えてくれた。

 (ルシウス様も、シルヴィア様も、それぞれの道を歩んでいる)

 人生は、誰もが自分の選択の結果を生きている。

 私は、この選択を、この人生を、心から愛している。


「婚約破棄、ありがとうございました。おかげで最高の転職先が見つかりました」

 そう言って微笑む私に、ヴィクター様は優しくキスをした。

 前世の私へ。

 この幸せを、精一杯生きます。

 そして、この人と共に歩む人生を、大切にします。

 月明かりの中、私たちは抱き合っていた。

 これが、私の新しい人生。

 前世の苦労が報われた、最高の人生。

 すべての選択が、この幸せに繋がった。


「愛しています、ヴィクター様」

「私も、エリアナ。永遠に」

 その夜、私たちは幸せに包まれて眠りについた。

 これが、私の物語。

 婚約破棄から始まった、最高の人生の物語。


【完】

読んでいただき、ありがとうございます。


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