断罪イベントが早すぎるんですけど!?
第一章:月曜の朝から何してんの
月曜日。朝礼。
私、サフィア・フォン・アズライトは大講堂で立ったまま寝落ちしかけていた。
学園長の話、いつも通り長い。
「――という訳で、廊下を走るな」
うん、知ってる。
「図書館の本は返せ」
それも知ってる。
「食堂でのマナーを――」
もういいって。
もっとこう...生産的な話しないのかよ...
この世界は前世でプレイていた乙女ゲーム『恋する王子と五つの花』の世界。
で、私は悪役令嬢サフィアに転生した。
原作だと卒業パーティーで王子に婚約破棄される役。
でも今は一年生。あと三年ある。余裕余裕。
それまでに身の振り方かんがえて、手に職でもつけりゃいいでしょ...
「待てぇぇぇぇ!!!」
――って誰だよ!?
突然、ステージに男が飛び乗った。
私は眉をピクつかせる...
(あいつ、マジかよ)
金髪。碧眼。
絵に描いたようなイケメン。
まぁ絵なんだけどね…
第一王子、ディアス・ヴォン・エクセルシア。
今のことろ、私の婚約者。
私は、攻略対象で一番嫌いだったヤツ。
いちいちオーバーだし、鼻につく...
演出とは言え、女の子に恥じかかせるクズ...
いちいち鼻につく...
はい、嫌い
可哀想に、学園長が固まってる。
そりゃそうだよ。いきなり朝礼ジャックされたら誰だって固まるわ。
(これパワハラだろ...)
王子は全校生徒に向かって、腕を広げた。
(はい、嫌い)
「本日!この場をもって!サフィア・フォン・アズライトとの婚約を破棄するぅぅぅ!」
――――は?
(今?朝礼で?まだ月曜ですが?マジで、これから一週間どうしろと?クズが…)
周囲がざわつく。当たり前だ。
朝礼で婚約破棄とか、斜め上すぎるだろ流石に。
これ原作の卒業パーティーのイベントじゃん。
(なんで朝礼!?なんで一年生の!?スケジュール早めすぎでは!?)
王子、私を指さす。
「サフィア!貴様は平民の生徒を虐げ、傲慢な振る舞いを繰り返してきた!」
(やってないけど、入学して数か月ですが?)
「もはや王妃にふさわしくない!」
(最初からなりたくないけど…その前にお前と結婚とか吐くわ)
「よって婚約を破棄する!」
(だから、なんで朝礼で!?気遣いとかできないの??マジで)
ツッコミが追いつかない。
え?原作よりヤバくね?こいつ...
第二章:証拠がガバガバすぎる件
王子は得意げに続けた。
「証人を呼ぶ!平民のマリア、前へ!」
(お前、平民のとか付けるのやめろよ)
客席から、地味な女の子がおずおずと出てきた。
めっちゃ困惑している...
茶髪。小柄。絵に描いたようなヒロインのマリアだ。
(かわいい...)
「マリア!サフィアに虐げられたこと、証言してくれ!」
マリア、困ってる。すごい困ってる。
「あの……」
「言ってくれ!」
「いえ、特には……」
「何?」
「サフィア様、私に何もしてません」
(そりゃそうだ、私、転生してから悪役ムーブ一切やってないし))
だって、マリア好きだし、変なことに巻き込まれたくないから話してもいないし...
シーン。
会場、静まり返る。
王子の顔、真っ青。
学園では普通に過ごしてた。それだけ。
王子、焦って次の証人を呼ぶ。
「では!貴族のクリスティーナ!」
(だから。貴族のとか付けんな!あぁうざい...)
ツインテールの子が前に出る。
「サフィアが平民を見下す発言をしたと聞いたが!」
「ええ、聞きましたわ」
「ほら見ろ!」
「ただし」
「ただし?」
「あくまで、噂ですわ」
「……噂?」
「お友達のお友達から聞きましたの」
(それ伝聞の伝聞じゃん!証拠能力ゼロ!)
王子の額に汗が浮かぶ。
その時、教師席から手が挙がった。
「失礼、殿下」
この渋くてかっこいい方は、魔法学教師のガーネット先生だ。
幼少の王子の魔法講師...つまり、王子は頭が上がらない御仁だ。
「は、はい」
「証拠は以上ですか?」
「いえ、まだ……」
「では提示を」
毅然とピシャリ
(先生、完全に授業モードだな)
王子、懐から紙を取り出す。
「これは!サフィアが書いた手紙だ!『平民など虫けら同然』と!」
「では、拝見します」
ガーネット先生、紙を受け取る。
三秒後。深いため息とともに先生の不快感が伝わる。
「殿下、これ偽物ですね」
「な……!」
「筆跡が全然違います。サフィア嬢の字はもっと繊細です」
(さっすがナイスミドル、有能すぎ!)
王子、完全に追い詰められてる。
顔、真っ赤。
(可哀そうに)
笑いを堪えるのが大変だわ。
第三章:周りが冷静すぎる問題
その時、学園長が口を開いた。
「殿下、私も確認させてください」
「な、なんでしょう」
「この婚約破棄、陛下の許可は?」
「…い...いえ…ございません...」
「では無効ですね」
「え?」
「王家と貴族の婚約解消には国王の承認が必要です。それがないと、ただの私見です。
まさかご存じなかったのですか?」
(学園長、事務的すぎる)
(王子...真っ青だけど、赤くなったり青くなったり忙しいなこいつ...)
学園町は、完全に「また面倒なことを」って顔してるし。
(可哀そうに)
周りの生徒もざわざわ。
「なんか、断罪じゃなくね?」
(自己断罪ね)
「公開処刑っていうか、公開討論?」
(公開処刑されえたの王子ね)
「王子、準備不足では」
(正解!)
「つーか朝礼でやることか?」
(みんな冷静すぎて草)
私も内心でツッコミまくってるけど、周りも似たようなもんらしい。
王子、必死に弁明。
「しかし!サフィアは傲慢で!」
「具体例は?」
ガーネット先生、容赦ない。
「その……えっと……」
「ないなら名誉毀損ですよ」
「うっ……」
「国王に報告させていただきます」
「...」
王子は、黙ってしまった。
(もう可哀想になってきた)
第四章:私のターン、です
ここで黙ってるのも何なので、私は手を挙げた。
(嫌いだしね、黙らせたいし)
「すみません、一言よろしいでしょうか」
全員の視線が私に集中。
(思ったより、プレッシャーやべえ)
「殿下」
「……なんだ」
(なんだ?その態度)
「一つお聞きしたいんですけど」
「何を」
「この断罪イベント、本来いつ実行する予定でしたか?」
「は?」
「通常、婚約破棄って国王が参列されている正式な場でやりますよね。誓いところで言うと例えば卒業パーティーとか」
王子、黙る。
私、畳み掛ける。
「なんで朝礼で?しかも証拠も準備せずに?」
「それは……」
「段取り、雑すぎませんか?」
王子しゅんとする。
(笑いそう)
会場、ざわつく。
「確かに……」
(確かにじゃねーよ)
「朝礼で婚約破棄、前代未聞だよな」
「しかも証拠がガバガバ」
「つーか殿下、台本読んでないだろ」
(みんな容赦ないな、人徳の無さに泣けてくる)
満を持して、トドメを刺す。
「婚約破棄は別に構いませんけど。せめて台本は最後まで読んでから実行してくださいね。恥ずかしいので」
「なっ……!」
会場がどっと笑いで包まれる。
王子、顔真っ赤にして反論しようとした。
その時――
「はい、ここまで」
学園長の一声。
「しかし!」
「授業が始まります。この件は後日、国王のいる正式な場で協議しましょう」
はい、強制終了。
生徒たち、ぞろぞろ教室へ戻る。
私も教室に向かおうとしたところ、ガーネット先生が近づいてきた。
「サフィア嬢、見事でした」
「いえ、お騒がせしました」
「流石アズライト卿のご息女、聡明であられる」
「恐れ入ります」
(いや、普通にツッコミだったんですけど)
第五章:なぜか株が上がる
その日の放課後。
クラスメイトに囲まれた。
「サフィア様!すごかったです!」
「え?」
「朝礼での対応!冷静で!理知的で!」
「いや、あれは……」
「私、サフィア様のこと誤解してました!本当は優しい方なんですね!」
(優しいというか…バカにバカと言っただけというか…)
その後も次々と。
「サフィア様、素敵です!」
「王子より賢い!」
「憧れます!」
(おやおや?なんか評価爆上がりしてる……)
一方、廊下では王子が――
「殿下、あれは酷すぎます」
「準備不足にも程がある」
「サフィア様を傷つけるおつもりでしたか?」
「いや……その……」
取り巻きとクリスティーナ様に詰められている。
(あぁ完全に立場逆転してる)
「聞いているんですか?殿下!」
クリスティーナの声が廊下に響く。
(あれ?私が悪役令嬢だったはずなのに……)
第六章:まさかの「やり直し」要求
数日後。
王子が教室に乗り込んできた。
「サフィア!」
(嫌な予感しかしない)
「なんでしょう」
「話がある」
(私はないですが…?)
「先日の件だが」
「はい」
「やり直したい」
――――は?
(バカなの?いや、バカな人だ)
「もう一度、断罪イベントをやり直させてほしい」
(何言ってんのこの人)
私、呆れて言葉も出ない。
「…殿下、何を仰ってるんですか」
「今度こそ完璧な証拠を揃える!そして貴様を――」
「いや、なんで二回目があると思ってるんですか」
「え?」
「一回失敗した時点で終わりです」
「しかし!」
「それに殿下のせいで私の評価が上がっちゃいましたけど」
「ぐっ……」
「今更断罪しても、誰も信じませんよ」
王子、絶句。
(分かれよ)
その時、クラスメイトが割って入った。
「殿下、もう諦めてください」
「サフィア様は私たちの憧れです」
「殿下が断罪なんてしたら、私たちが許しません」
(えっ、私いつの間にか人気者……?)
王子は、肩落として去っていった。
私、ため息。
「原作と全然違う展開なんですけど……」
エピローグ:平和な日常(?)
それから半年。
私は「冷静で理知的な令嬢」として学園で有名になった。
王子との婚約は正式に解消。王家に泥は塗れないので、私からの申し出って形で。
(もうあいつと関わりたくない……)
で、もう一つ問題がある。
ヒロインのマリアが、なぜか私に懐いた。
「サフィア様!今日もお昼一緒に食べましょう!」
「ええ、いいわよ」
(なんで私がヒロインと仲良くなってるんだ……)
しかも、マリアは王子を「気持悪い」と言って毛嫌いしている。
原作ルート、完全崩壊。
(なんか、ごめん)
でもまあ、いいか。
平穏に過ごせるなら、それが一番。
そう思いながら、私はマリアと食堂へ向かった。
ちなみに王子はその後、別の令嬢と婚約した。
その令嬢、原作の悪役令嬢その2なんだけど――
まあ、それはまた別の話。
私は関わらない。
絶対に。
(完)
あとがき(おまけ)
【後日談:保護者会にて】
王子の母、王妃陛下がサフィアの母に謝罪に来た。
「この度は息子が大変失礼を……」
「いえいえ、お気になさらず」
「朝礼で婚約破棄など、非常識にも程がございます」
「ええ、まあ……」
(そりゃ引きつるよな、母よ)
「しかも証拠もなく……恥ずかしい限りです」
王妃様、頭抱えてる。
そりゃそうだ。
息子が全校生徒の前で盛大に恥かいたんだから。
「サフィア様は本当に聡明なお嬢様で……息子には勿体ない」
(え、なんか褒められてる)
「今後とも、どうぞよろしくお願いいたします」
王妃様、深々と頭を下げて去っていった。
母が私を見る。
「サフィア、あなた何したの?」
「……思ったことを言っただけです」
こうして私の平穏な(?)学園生活は続いていく。
断罪イベント?
もう二度とごめんだ。
(本当に完)
読了ありがとぅござします。
連載作は21時に更新されます。合わせてお楽しみください。
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