主人公チャレンジ
ラノベ主人公を目指す。
それは、俺の高校生活においての今のところの目標であり至上命題だ。どうにかして、ラノベのような、夢のような生活を享受すること。その為なら何だってやってやる。
そうと決まれば、まずはラノベ主人公を再研究せねば。
脱力やれやれ系で行くのか、アグレッシブなバカ系で行くのか、それとも変わり種なキャラクターで行くのか。
どんなヒロインとどんなイベントを消化していくのか。どんな友人キャラとどんなバカをやるのか。
大まかな方針を決めなければいけない。
まず、面白い学園ラノベというものには大抵の場合一人、名物ネタ枠を兼ねる友人キャラがいる。所謂ラブコメにおける友人枠と同じ感じの立ち位置のキャラだ。そして、そういったタイプのキャラは得てして変態であることが多い。
この特徴に完全に合致する乾を初日で捕まえられたのはかなり運が良い。こういう奴は情報通だったり実は精神的に大人びていたりと役に立つギャップが幾つもあるのがお決まりだ。乾のポテンシャルに期待しつつ今後も仲良くさせてもらうことにしよう。
続いて、ヒロイン。
これはもう簡単だろう。間宮とあずみゃがいるからな。特に間宮は今後予想される接点も多いし俺を主人公とした場合のヒロインの椅子には確実に座ることになる立ち位置だ。あずみゃに関しても、登校初日に最初に出会ったことがかなりヒロインとしての株を上げている。
ここで問題になるのは、皆川と七草ちゃんの扱いだ。彼女達はヒロイン化する場合もあればIFルートが少し匂わされる程度のサブヒロインで終わる可能性もあり、普通の女友達キャラのままで物語が進む可能性もある現時点では完全に未知数な2人だ。この2人については今は様子見だな。
そして、最後に他クラスの友人枠だがこれはシンプルだ。塩谷と宮城のカップルで良いだろう。今後は合同練習で接点も増えるだろうし、球技大会までに仲良くなっておけば今後も友達をやってくれる可能性が高まる。
今できる状況整理はこのくらいかな。なるべく大きなイベントごとに積極的に関わって、ヒロインと友人達を巻き込んだイベントを起こしたり彼らの起こしたそれに巻き込まれたりして好感度を上げていかないと。
いずれは、押しも押されぬ人気の主人公に。それが俺の夢だ。
「おはよう桐野君!」
「おはよう皆川。今日も元気そうだね」
「うん、良いこと聞いちゃったからね!」
「良いことって?」
「一週間後に、球技大会があるんだって! しかも女子の種目にバスケがあるんだって! やったね!」
皆川って本当にバスケが好きなんだな。やっぱ好きなことに本気な子は性別問わず応援したくなるし、見ていて良い気分になるから好きだ。
「それは良かったな。今日は球技大会についての話が3限目にあるから、用意しとくといいよ」
「あ、そうなんだ。ありがと!」
教室に入って、席に着いた俺を出迎えてくれたのは皆川だった。席に座って後ろを見ると机に突っ伏して爆睡している乾もいて、皆川にイタズラで顔に落書きをされていた。この2人は本当に仲が良いらしいな。皆川に聞いたら否定すると思うけど。
「おはよう、桐野君。昨日は一緒に帰ってくれてありがとね」
「良いんだよ、家結構近かったしさ。俺引っ越してきたばっかで土地勘無いから、地元民と知り合いになれて助かった」
色々とおすすめの場所を間宮に聞けるからな。右も左も分からない俺にとっては本当にありがたい話だ。
「え、桐野君ってこっちに最近引っ越してきたんだ。 元々どこ住んでたの?」
前の席の間宮との会話に、後ろの皆川が食いついてくる。前と後ろを交互に向くのって結構大変だな。
「仙台の近く。つっても生まれてからしばらくと中学3年間だけだけどね。その前は別のとこ」
「そうなんだね、その前ってどこにいたの?」
「ちょっと珍しいけど俺、2年くらいアメリカ行っててさ。小学校高学年の頃はアメリカで過ごしてて、中学に入る時仙台に戻ってきたんだよ。
で、去年親の転勤が早めに分かったからこっちの私立高校探して受験したらここ受かって、それでって感じ」
「結構珍しい経歴だねー。アメリカかー、行ったことないけどどんな感じ?」
「私も気になるかな」
皆側だけでなく、間宮もやはり俺の話が気になるようだ。まあ、普通に生きてりゃ身近に帰国子女ってあんまりいないしそれもそうか。
「とにかく自由って感じ。なんていうか、どの選択をするのも自己責任って側面が強いかな。俺が行ってたとこはエリート志向強い層の住んでる街だったから勉強についてくのが大変だったよ」
何せあのGAFAの本社の周辺だったからな。そんなところに2年間いたのに機械に弱いあたり俺は本当にその辺に向かないんだろう。
「なんか、すごくスケールの大きい国ってイメージ! 楽しいこともたくさんあったんでしょ?」
そこからも興味津々の皆川の質問にしばらく答えているとチャイムが鳴ったので、俺は前に向き直る。
「後で色々また聞かせてね」
そう言ってくれる皆川にありがたみを感じつつ、俺は今日の学級会で間宮とのフラグを立てることを考えながら古城先生の話を聞いた。




