他己紹介、タコ紹介。
俺のアラビアータ解説が好評だったのか、その後も俺達のグループでは好きな食べ物についての会話が続いた。
スイーツが大好きな間宮、麺類が好きな皆川、映えるならなんでもいいらしい七草ちゃん。そしてパピコが死ぬ程好きらしい乾。乾に関しては多分パピコの中身を母乳だと思って吸ってる。そこは素直におっぱいアイス買えよ。変態のくせにそこちょっと恥ずかしがってんじゃねぇよ。女子達が意図に気づいてなくて良かったよ本当に……
「食べ物の話はこれでみんな終わったかな? じゃあ次は趣味の話をしようよ」
MC役をやってくれている皆川の提案で、趣味について一人ずつ順番に話す流れが始まった。
「俺はもちろん……」
「乾は良いよ、どーせエロ関連だし。私はゲームが好きで、将来はゲーミングPCとかも欲しいなって思ってるんだ。お父さんがすっごいゲーム好きで、私に色々貸してくれるからやってる内にどんどんハマっちゃって」
意外にも、皆川は部活以外ではインドア派のようだ。ゲーミングPC欲しがるレベルでやり込んでるゲーマー女子なんて成人してからはともかくこの年齢じゃ貴重だし、きっと色んな男子にゲームに誘われるんだろうな。それはそれで大変そうだけど、マルチプレイの相手に困らなそうなのは素直に羨ましい。
俺なんてネトゲでネカマしてた時くらいしか誰かとマルチプレイできたこと無いのに。個人情報聞いてくるキモい奴には、看護学校に通ってて忙しいから会えませんって言って断ってたのも含めて黒歴史だ。ちなみにプレイヤー名は「戦場のメリー・白衣のエンジェル」でした。
今思うとマジで露骨にネカマっぽいな。気づけよ誰か。気づいてくれたらそこで止まれたのに。
「私はカフェ巡りが好き。色んなカフェで美味しいスイーツを食べて、ゆっくりするのが楽しいんだ」
そして、こちらはいかにも女子らしい趣味をお持ちの間宮。本当にとことんスイーツが好きらしい。
「あたしは〜、映える食べ物食べに行って、それ撮って美味しく食べるのが大好き〜」
そしてこちらもギャルらしい趣味の七草ちゃん。趣味の系統は間宮と似てるし、この二人は映える食べ物があるカフェに一緒に行ったりして親睦を深めそうだ。そこに食通の俺は同行しないのかって? 百合の間に挟まったらダメだろ普通に考えて。
「じゃあ次は俺か。俺は音楽聴くのとスポーツ観戦が好きかな。特にバスケとサッカー観るのが好き」
嘘は吐いていない。実際俺はオタクではあるが同時に多趣味であり、幅広いジャンルの音楽を聴くしバスケとサッカーも観戦するハイブリットなオタクなのである。
だから、嘘は吐いていない。
「え、バスケ好きなんだ! 好きなチームってある?」
「俺はゴールデンステートかな。Bリーグはあんま詳しくないんだけどNBAなら小学校の頃から観てるよ」
「そっか、そんなに好きなんだ! 私自分でやる方は好きなんだけどあんまり観る方は詳しくなくて。今度からプレーオフ始まるから見始めようと思うんだけど、おすすめの見方とか教えてよ!」
「お、いいよいいよ。じゃあ今度色々話すか」
え、何この子俺とめっちゃ趣味合うじゃん。やっぱ正直に趣味は明かした方がいいな。
中学の頃は趣味を言うのが恥ずかしい、という謎の価値観を持っていたせいで二年の時の自己紹介で「人間観察と自己分析。他には特に無い」とかいうクソ自己紹介やらかしたからな。何が趣味を人に言うのが恥ずかしい、だよ。その自己紹介の方がよっぽど恥ずかしいことになぜ気付けないんだ、気付けなかったんだお前は。
「はい、じゃあこれで十分間のアイスブレイクは終わりです! これからはグループごとに他己紹介をしてもらいます!」
と、ここでフリートークの時間が終わりを迎え第二ステージが始まった。
最初に指名されたのは先程俺の周りにいたウェイ系のグループで、それはもうWayでWaveでWavyなギャル男達の陽気な紹介だった。超Wavyでごめんね、とか言ってたし絶対あのラッパー意識してんだろアイツら。
続いて指名されたのは大人しめの女子達のグループで、こちらは順当にお互いの特徴を伝え合っていたのか、人となりがよく伝わる立派な紹介だったと思う。
そして、次に指名されたのは俺達のグループ。
「はい、じゃあまずは私について紹介してよ」
と、真っ先に立ち上がった皆川に促され、俺達は彼女の特徴を話し始めた。
「彼女は皆川真希さん。バスケが大好きで、元気で優しい女の子です」
「食べるのも好きみたいで、食に詳しい桐野君に色々と質問もしてました」
「今度カフェ行こーよ〜」
七草ちゃんだけ完全に紹介の体をなしていなかったが、皆川の特徴はしっかり伝えられたと思う。乾だけ皆川に口を塞がれていて発言権を失ってたけど。まあ変なこと口走る可能性考えたら当たり前か。
そして、その後もスイーツとカフェ巡りが好きな間宮、映え大好きの七草ちゃんを紹介し俺の番がやってくる。
「彼は桐野奏助君。音楽とスポーツと食べることが大好きで、色んなことを教えてくれる優しい人です!」
「もし同じ趣味の人とかいたら、彼に話しかけてあげてください」
「今度おすすめのお店連れてってよ〜」
「コイツとは一緒にエ……グッ!」
みんな素敵な紹介ありがとう。皆川はもっとありがとう。危うく人権を失うところだった。
「じゃあ最後は……ねぇ、これの紹介どうする?」
「テキトーにさっき出た単語からそれっぽく紹介するしか無いよな……とりあえず、ボケに逃げて誤魔化そう」
と、ここで皆川が俺に耳打ちしてくるので解決策を返しておく。すると……
「えっと、コイツは乾綾人。中学の頃からのクラスメイトで、タコです!」
まさかのタコ紹介が始まってしまった。耳にタコができる、に引っ張られたのか。引っぱりだこだけに。
「吸盤はまだ無いですが野球部で九番を打ってました」
一応、それに乗っかって更にタコボケを重ねておく。
「えっと、指を腕みたいに動かせます!」
それむしろ退化してない?
「乾っちマジタコ〜」
うん、君はいつも通りで安心したよ。
「ということで、私達四人とタコを一年間よろしくお願いします!」
皆川の締めの一言でクラス中から拍手と笑いが起こり、先生も苦笑いで次のグループを指名しなんとか俺達の番が終わった。
最初はどうなることかと思ったが、意外とこのグループ楽しかったな。




