元女神様との同居生活(3)
「………シルフィ、上がったぞ。あと一応、お風呂のお湯張り替えといたから。」
美少女の残り湯に浸かれる日、また来るかな………
先に入るか後に入るか―――そんな国際問題並みの葛藤に苛まれた俺は、「シルフィより先に入って、お湯を張り替える」という非常に紳士的な選択をした。
「あ、ありがとうございます。………ただ、私はそういうの気にしないので、次からはそのままで大丈夫ですよ?」
「そ、そうか?シルフィがそう言うなら………わかった。」
「―――じゃあそろそろ、私も入ってきますね。」
「お、おう。」
なに動揺してんだよ俺。
ただ同じ屋根の下で、男女二人が順番に同じ風呂に入り、長い夜を共にするだけ………
――――――あれ?これってもしかしなくても、凄いえっちなのでは?
確か、三十歳まで貞操を守り切ったら、魔法使いになれるんだったよな………
―――くそっ!非常に誠に残念だけど、魔法使いの道は諦めるしかないのかっ!
◇ ◇ ◇
「あの………智也さん………」
俺が、いやらしい妄想を膨らませていたその時、背後から弱々しい声が聞こえた。
「な、なんだシルフィ、上がったのか――――――って、シルフィ!?なんて格好してるんだ!?」
そっと振り返ると、そこにはバスタオル一枚で身を隠し、頬を赤らめたシルフィが立っていた。
胸元はタオルで押さえていたものの、華奢な身体の白い肌があまりに無防備で、男子高校生の俺には、ちょいとばかり刺激が強すぎた。
「シ、シルフィ?そういうのはもっとこう、段階を踏んでからやるべきだと思うんだ、うん。」
「その………智也さん。着替え、貰ってもいいですか………?」
あ、終わった。完全に早とちりした。
「あっ………着替えね。今とってくるから、ちょっと待っててくれ。」
俺は慌ててクローゼットを開け、昔着ていた服を取り出した。
当然、俺に女装趣味なんてものはないので、あるのは男物だけだ。
「とりあえずこれ―――着てみてくれ。」
「すみません、ありがとうございます。」
『…』
「あ、あの、後ろ向いててくれませんか………」
「あっ、わるい………」
俺の背後でシルフィが衣擦れを立てるたび、意識がそちらに引き寄せられて、胸の奥がざわつく。
「も、もう着替え終わったので、振り返っても大丈夫ですよ………」
そのシルフィの言葉に、ようやく緊張の糸がゆるんでいくのを感じた。
俺は、ゆっくりとシルフィへと視線を向ける。
「お、おお………!やっぱり、着る人が着ると着るなあ。」
「と、智也さん………?それは………褒めてくれてるんですか?」
やばい。なんか今の俺、めちゃくちゃ日本語変だった気がする。
「えーっと、その服、俺の中学時代のなんだけど、色々言われて着るのやめたんだ。でも、シルフィが着ると全然違うなって、多分そう言いたかったんだと思う………」
シルフィに渡したのは、無地の白Tのに、筆記体で英語が書かれているもの。
ぐちゃぐちゃすぎて、なんて書いてあるのかはまだ分かってないけど、あいつに散々バカにされたっけ………
「………ふふっ、なんですかそれ。」
「わ、笑うなよ。………さっきは緊張してたんだから。」
「でも、褒めてくれてるっていうのは、しっかり伝わってきましたよ?」
頬を紅潮させたまま、シルフィは小悪魔みたいに笑った。
「それなら良かったんだけど………」
気づけば、さっきまでの張りつめた空気はすっかり消えていた。
「―――ずっと気になってたんですけど、この文字なんて書いてあるんでしょうか?」
「それなあ………英語っていう言語なのは分かってるんだけど、ぐちゃぐちゃすぎて読めないんだよ。」
「そうなんですか………でも、どんなことが書いてあっても関係ないです。智也さんからもらった服ですし、大事に着ますね。」
「………そうか。ありがとな、シルフィ。」
こんな健気で可愛い子に着られて、服も泣いて喜んでいることだろう。
それにしてもこの英語、なんて書いてあるんだろ………
『My chest can double as a cutting board.』
(直訳:私の胸はまな板としても機能します。)




