元女神様との同居生活(1)
「えへへ………私も来ちゃいました………」
あの後、転移自体はちゃんと成功して、俺は無事に元の部屋へと戻ってきたわけだが………………問題はこの小娘。
「なあシルフィ………出会ったときから思ってたけど、お前ってやっぱりぽんこつだよな。」
「っ─────ぽっ、ぽんこつなんかじゃないです!たださっきは、智也さんを帰せなかったらどうしようと、少し焦っていただけです!」
なんだ、シルフィはこれでも、自分なりに俺のことを考えてくれていたのか。
そう思うと、妙に嬉しくなってしまった。
「そ、そうか、ありがとうな………まあ、俺もこうして無事に戻ってこれたことだし、シルフィも元の世界に帰っても大丈夫だぞ?」
「………そ、それなんですけど、実は私、戻れなくなってしまいまして………」
あからさまに、声のトーンを下げるシルフィ。
「あー、魔力不足みたいな感じか。まあ一日ぐらいなら泊まって大丈夫だから。明日学校休みだし。」
「いえ、そうではなくて………私はもう、女神じゃなくなってしまったといいますか………」
おずおずと身を縮めるシルフィをよく見ると、先ほどまで頭に浮いていた輪っか、そして背中に付いていた羽が、綺麗さっぱり無くなっていた。
「でも、見た目だけなんだろ?」
「いえ………魔法も使えません。さっきの転移魔法も。」
おっと、雲行きが怪しくなってきたな。
「………なるほど、つまりはそんじょそこらの一般人と変わりないわけだ?」
「………そうなりますね。」
「そうか………よし。─────これを受け取れ。」
俺は机の上のスクールバッグから財布を取り出し、千円札を一枚抜いてシルフィの手にそっと渡した。
「………これは、なんですか?」
シルフィはそれを、怪訝そうな顔で受け取った。
「俺の国の通貨、千円札。見た目はただの紙切れだが、これ一枚で当分は食っていけるはずだ。」
「は、はあ………─────って、見捨てる気満々じゃないですか!」
「誤解しないでおくれシルフィ。これはシルフィがしっかり者で、一人でも生きていけると判断したうえでの行動だから。」
「絶対に嘘です!さっき私のこと、ぽんこつとか言っていたじゃないですか!」
再び顔を赤くしたその表情は、今にも泣きだしてしまいそうだった。
「────し、仕方ないだろ。残念だけど、俺の家にお前を養っていくほどの余裕はないんだ………」
「これ一枚で当分食っていける紙切れ、でしたっけ?財布にいっぱい入ってましたよね?」
シルフィは、勝ちを確信したように口元をつり上げ、いたずらな笑みを浮かべた。
「うっ────だ、だけど本当に今の生活がやっとで………」
おかしいな……なんで俺、美少女に借金を取り立てられてるみたいな状況になってるんだろう。
「…………そうですよね。元はといえば、私のせいなんです。………私が智也さんにお願いするなんて、本当は許されないことだとは分かっています。────ですが、どうかお願いします。ここに暫くの間住まわせてください。」
そうだ。俺をあの場所に呼んだのも、ここにシルフィがいるのも、全部シルフィ自身がまいた種だ。
俺が情けで助ける義理なんて────どこにもない。
それでも、俺は………
「────なあシルフィ。俺とお前が最初に出会った時、確か異世界の料理名言ってたよな?もしかして、異世界に行ったことあるのか?」
「………え?………はい。何度か、わらびスライムとミノタウロスの生き血プリンを………」
あれ、そんな馬鹿げた料理名だっけ。
「そ、そうか。────なら魔物を倒したことはあるか?」
「はい、魔王幹部とその手下を何人か………」
よし、今からでもこいつを元の世界に戻す方法を探しだそう。
この世界に置いておくには、あまりにももったいない。
「そ、それはすごいな。────実はこの世界にも、魔王幹部に匹敵する強敵がいてだな………そいつら、頼めるか?安心しろ、魔法はこっちで用意する。」
「……?───────はっ、はい!智也さん、ありがとうございます!」
(あんな悲しそうな顔を見たら、放っておけるはずがないだろ………)
────それでも俺は、シルフィに手を差し伸べるのであった。




