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王子様はテンプレで、私は例外

いつもの放課後、私は廊下の自販機前で、缶ココアを選んでいた。 その裏から聞き慣れた男子生徒の声がする。


「え、氷堂くんってピアノも弾けるの? すご〜い!」


「うん、小さい頃からなんとなく。君もやってた? 指がきれいだし」


(……ほう?)


数人の女子生徒に囲まれているターゲット、氷堂レン。

言葉遣いがいつもと違う。声に丸みがある。

極めつけに、微笑みの角度が1.5度“柔らかい”。


(あんな声、授業中の私には一度も使ってこないけれど)


彼が”学園の王子様"だなんて聞くだけで鳥肌が立つ二つ名で呼ばれているのは無駄に良い彼のルックスのせいだと思ってた。



(でもこう見る感じ私以外の他の生徒には見た目相応な態度を取ってるみたいね、、)



そのときだった。


「──あれ、レイナ?」


彼の視線が、こちらに気づいた。気配は消したつもりだったのに。少し乱れた脈を落ち着かせながら彼たちのもとにゆっくり近づいた。


「こんなに可愛い女子たちに囲まれているだなんて”学園の王子様"は伊達じゃないのね」 


彼が珍しく顔を引き攣らせている。


「やだなあ、レイナまでその呼び方するなんて。僕、それほんとに苦手なんだけど……」


「へえ、それは貴重な情報ね。“学園の王子様”に弱点があったなんて。」


「そのままデータベースに登録しないでね? 僕、言葉が凶器になるタイプの人にはなるべく弱み見せたくないからさ。」


「私の言葉の鋭さなんてスポンジみたいなものよ。」


「うん、君と僕は硬度が違う世界で生きてるみたいだ。」


彼が苦笑いを浮かべながら、女子たちに軽く頭を下げて別れを告げた。

その場を離れながらも、彼の横顔にはまだうっすらと緊張の色が残っている。

どうやら本当に“王子様”呼びが効いたらしい。


面白い。


「……それにしても、“指がきれい”ってずいぶん古典的な褒め言葉ね」


「えっ、聞こえてた?」


「当然。あんな大声で囁いてるのかと思うほどの響きだったわ」


「ごめん、つい“他人用テンプレモード”で話してた」


「なるほど。“バージョン王子様”の会話ね。分かりやすい」


「王子様は一回忘れよ?いやでもさ、レイナってちょっと特殊枠なんだよ」


「なにそれ、お姫様にはなりにれない魔女みたいな扱い?」


「いやほんと、君相手だけ台本が通用しないんだもん。魔法をかけられてる気分だ。」


「それなら脚本勉強してきたら? 感情に任せて喋らない分だけマシになるかも」


「えっぐ……」


彼は頭を抱えて嘆くフリをしてみせたが、口元だけがしっかり笑っている。


まったく、任務対象として観察していなければ、ここまで会話に手間をかける理由はない。

なのにどうして、こんなにも言葉を返すのが“自然”になってしまったのか。


(……まあ、目標はあくまで“排除”)


その事実だけは、ひとつも揺らいでいない。


ただ、――彼が他の誰かに見せる“優しさの仮面”より、

私とだけ交わすこの“無駄に鋭利なやりとり”の方が、なぜか情報としては面白い気がするだけ。


そしてそれは、おそらく私にとっても、

何かを測る基準に――なってしまっているのかもしれない。


彼を殺すまで残り71日

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