狙撃ポイント:職員室前廊下。障害物:王子の無駄口。
ターゲットの動向を探るため、昼休みの校内巡回。
それはあくまで任務――だったはずなのだが。
「おや、また巡回? まさかレイナさん、校内セキュリティでも担当してるの?」
声の主は案の定、氷堂レン。持っていたスプーンをカッププリンに刺した状態で、私の前に現れた。
どうやら昼休みにも“甘さ”への対処能力が低いらしい。脳までやられているのかもしれない。
「歩いてるだけよ。あなたのように無駄に存在感を振りまいていないだけ」
「なるほど。じゃあ僕の存在は“騒音”ってこと?」
「騒音にはまだ機能性がある。あなたは……壁紙に文字が書いてあるみたいなタイプね」
「それ、日替わりで内容変わるならちょっと面白いけど?」
「飽きる以前にまず剥がしたいわ。視界の治安が悪いから」
彼は笑って肩をすくめた。“言われ慣れてる笑顔”。
そう、そこが面倒なのだ。普通の相手なら怯む言葉も、彼はスルー力をデフォルト装備している。
(こういうタイプは、感情の揺さぶりでは削れない)
だから私は逆に、“淡々と突き放す手法”に切り替えている。
「それにしてもさ。君って、誰にでもそういう感じなの?毒舌通過率、高すぎない?」
「あなたのように“反応速度最速で脳が口を超えてるタイプ”が相手だと、抑えようがないだけ」
「じゃあ少し、間を置いてから喋ってみようかな。……(間)……どう?」
「それで知性が上がったと思うのならおめでとう」
「いやー、やっぱ好きかもしれない、この会話」
(なぜ喜ぶ)
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休み時間の終了を知らせるチャイムが鳴ると、彼はすんなり私の横に並んだ。
「一緒に戻る?」
「どうせ席が隣なのだから、分ける意味がある?」
「そう言うと思ってた! うん、なんかもう君の台詞、手のひらに書き込んで持ち歩きたい」
「“祟り神に祈願メモ”でも作るの?」
「ネーミングセンスすら地味に刺さるからやめて」
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階段を上がる間、私はふと考えていた。
彼との会話に感情は揺れない。だから平静も保たれている。
だが。
この“無害に見せた接近”、やはり性質が悪い。
日常に紛れながら、徐々に侵食してくる。
それが、最も面倒なタイプの存在――
“削れない相手”という点において。
(排除対象としては、十分過ぎる資質)
76日後、確実に任務は果たす。
だがそれまでに、私の語彙が尽きないことを祈るばかりだ。
彼を殺すまで残り76日