その距離、射程圏内につき
私は今日から“普通の女子高生”を演じることになった。
この制服のスカート丈も、前髪のバランスもすべて“ターゲットが警戒しない見た目”のための設計。
コードネーム〈レイナ〉。政府直属の排除任務第X-14号に従い、私はこの学園に転入した。
「君が…新入生? へえ、ずいぶん静かなタイプだね」
隣席の男子、氷堂レン。
髪は整いすぎていて、姿勢は軍隊レベルに無駄がない。
あからさまに目立つのに、不思議と“嫌味”ではない。だからだろうか。女子たちの声量が、開始5分で教室の限界を超えた。
「……騒音、鼓膜への暴力行為」
「ん? なんか言った?」
「いいえ。ただの環境分析」
彼はにこりと笑った。人懐っこさを装う目線。だが何かが変だ。
距離を詰めようとはしないくせに、さりげなく“観察”してくる。
その視線が鬱陶しい。だが、任務のためには接触を拒めない。
「よろしく。私の名前は姫原れいな。成績は中の上、趣味は音楽と、最近は恋愛に振り回されて破滅の道を辿ってる女子の観察とか」
「わりと刺さった。君、言葉は静かに暴力的なんだね」
本心が混じりちょっと攻めた発言かと思ったが、彼が常識外な人間で助かった。
ちなみに任務対象とはいえ、私は感情で人を好きになったことなど一度もない。
でも、この“平然と観察してくるくせにノンデリカシーな男”は──
任務上、どうしても観察範囲から排除できない。
この距離、机2つ分。
狙撃可能範囲であり、心理的ノイズ発生範囲でもある。
彼を殺すまで残り80日