女神の論理
※一部グロテスクな表現があります、苦手な方はご注意ください。
激痛で意識が戻る‥‥善輝が目を開けた場所は‥‥
見たこともない原生林の中だった。
紫色の葉を茂らせた巨木が空を覆い、重力が地球よりも少し軽い。
ここがブラックホールの先‥‥ホワイトホールから排出された異世界なのだろうか‥‥。
「ぐ、あ……ぁ……」
体を起こそうとして、善輝は絶句した‥‥
起き上がれない‥‥感覚がない‥‥
視線を落とすと、右腕と左足が根本から無くなっていた‥‥
腹部は抉られ、内臓が見えている‥‥
「グルルゥ……」
すぐ目の前から野太い唸り声が聞こえた‥‥
顔を上げると、そこにいたのは3頭の異形の魔物だった。
通常の狼より一回り大きい程度の体躯だが、背中からは鋭い骨の棘が生え、その瞳は凶悪な赤色に輝いていた。
そして口元は鮮血で濡れており、その中の一頭はまだ咀嚼している‥‥つい先ほど食いちぎった善輝の右腕を。
(あいつらが……俺を……喰ったのか……)
落下して気絶していた間に、生きたまま捕食されていたのだ。
魔物たちは新鮮な餌の味が気に入ったのだろう、興奮した様子で舌なめずりをし、今度こそ完全に息の根を止めるべく、ゆっくりと善輝に近づいてくる‥‥
(死ぬ……のか……?)
魔物が大口を開け、無防備な喉笛に喰らいつこうと飛び掛かってくる!!
『……なんと穢れた、しかし強烈な魂じゃ』
不意に世界の色が変わった‥‥
時が止まったかのような静寂の中、虚空から光り輝く女性の姿が現れた。
この世界を管理する「女神」である。
彼女は瀕死の善輝を見下ろし、汚物を見るように顔をしかめた。
『異界の者よ、其方の放つ怨念は強すぎる。このまま肉体が滅べば、残った魂はこの世界を汚染し、理を食い荒らす「厄災の魔王」と化すであろう』
「だか……ら、なんだ……。俺は……あいつらを……」
『そうはさせぬと言っておる。魔王になられては、世界の管理に支障が出るのでな』
女神が冷徹な瞳で善輝を見据え、手をかざす。
『よって、其方の魂を「処理」する。――余の因子を楔として埋め込むぞ』
「いん……し……?」
『神の種じゃ。うまく適合すれば肉体は修復され、その穢れた魂も制御下における。……まあ、適合に失敗したとしても、因子の熱量に耐えきれず、魂ごと綺麗に燃え尽きる(消滅する)だけじゃ』
女神は、薄く笑った。
『魔王として残るくらいなら、跡形もなく消えてくれた方がマシじゃからな。どちらに転んでも余には損はない』
「ふざ……ける、な……! 俺は……実験動物じゃ、ない……!」
『選ぶ権利があると思うてか? 黙って受け入れよ』
眩い黄金の光――「神力」が、有無を言わさぬ奔流となって善輝の体へ注ぎ込まれた。
「ガアアアアアアアッ!?」
焼けるような熱さが全身を駆け巡る‥‥
欠損した手足の断面から、光の粒子が泡立ち、骨と肉が急速に再生されていく。
だがそれは、元の肉体に戻るのではない‥‥
もっと強靭で、もっと高次な「器」へと作り変えられていく感覚だった。
『ほう……耐えたか。面白い』
光が収束していく‥‥意識が急速に鮮明になる中、女神の声が遠ざかっていく。
『生き延びてみせよ、異界の子よ。その楔が花開くか、それとも毒となるか……余興として見ていてやろう』
女神の姿が消えると同時に、止まっていた時間が動き出した。
飛び掛かっていた魔物が、再び善輝の喉笛に迫る‥‥
だが、今の善輝は先刻までの「餌」ではなかった‥‥
カッ、と目を見開く‥‥その瞳の奥には、小さくも確かな「神の光」が灯っていた。




