帰還、そして旅立ち
文本の暴走によって生じたブラックホールが消滅し、宇宙に静寂が戻った‥‥
だが、安堵する暇はなかった。善輝の「真神」の視界には、さらに巨大な絶望が映っていたからだ。
次元の彼方にある太陽系。そこで、本来の脅威である「超巨大ブラックホール」が、今まさに地球を飲み込もうとしていた。
「……今の俺なら、何とかできそうだ……」
善輝はネオの王宮へと帰還した‥‥そこでは、勝利に沸く獣人たちと、状況が分からず怯える地球からの捕虜たちが入り乱れていた。
「主よ! ご無事でしたか!」
側近である狼の獣人将軍が駆け寄ってくる‥‥善輝は彼に、王の証である「指揮杖」を放り投げた。
「主よ……? これは?」
「俺はこれより、最後の仕事に向かう。……後のことは任せた」
「最後の仕事? まさか、あの空の向こうへ……?」
将軍は、善輝の瞳を見て悟ったようだった‥‥そこにあるのは、死地へ向かう者の目ではない。もっと高尚な、人智を超えた領域へ踏み入ろうとする者の目だ。
「地球から来た人間たちを虐げるな。彼らもまた、導き手が必要な弱き者たちだ。……お前なら、二つの種族をまとめられる」
「っ……! 承知いたしました。この命に代えても、主が築いたこの国を守り抜きます」
将軍が深々と頭を下げる。善輝は頷き、隣に立つ結衣を見た。
「立花、君はここに残れ。これから行く場所は、二度と戻れないかもしれない」
「いいえ」
結衣は即答した。その手は、善輝の軍服の裾を強く掴んで離さない。
「私も最後までお供します。……それに、二度と離さないと言ってくれましたよね?私を置いていったら絶対に許しませんから!」
その瞳には、かつて泣いていた少女の弱さはない。善輝は苦笑し、彼女の肩を抱き寄せた。
「分かった。……一緒に行こう、俺たちの最後の戦場へ」
二人の体が、黄金の粒子となって空へと昇り始めた‥‥国民たちが、捕虜たちが、空を見上げる。
それは、この世界に新たな神話が刻まれる瞬間だった‥‥。




