覚醒と罪悪感
※登場する人物、地名、団体名等はすべて架空のものです。実在のものとは関係ありません。
また、作者は専門的な知識は無く、インターネット等で調べた程度です。その為、矛盾等があるかもしれませんが、ご理解ください。
変化は劇的だった‥‥善輝の血を飲み込んだ彼女の体から、眩い光が溢れ出したのだ。
砕けた骨がパキパキと音を立てて繋がり、裂けた皮膚が塞がり、その下から白磁のような新しい肌が再生されていく。
黒かった髪は善輝の魔力の影響を受けて、月光のような銀色へと染まっていく。
そして‥‥
「ん……ぁ……」
彼女がゆっくりと目を開けた‥‥その瞳は、深紅。
善輝の「神の因子」を色濃く受け継いだ証だった。
「……ここは?」
彼女は身を起こし、呆然と周囲を見渡した‥‥そして、目の前にいる存在に気づき、悲鳴を上げて後ずさった。
「ヒッ……!?」
「落ち着け。俺は敵じゃない」
善輝は両手を挙げて敵意がないことを示した‥‥だが、彼女の瞳にあるのは明確な「恐怖」だった。
無理もない。今の善輝は、白磁の肌に金色の血管が走り、瞳は紅く輝いている。どう見ても人間ではない。
「こ、来ないで……! バケモノ……」
「言葉は通じるだろう? 俺は人間だ。……いや、元人間と言うべきか」
善輝は苦笑しながら、努めて静かな声で語りかけた。
「俺は神代善輝。お前と同じ、日本から捨てられた人間だ」
「ニホン……?」
彼女は怪訝そうに眉を寄せたが、警戒は解かなかった。
「嘘よ……。だって、そんな姿……」
「この世界で生き延びるために体が変わったんだ。だが、中身は変わっていない」
善輝は彼女の目を見て、誠実に告げた。
「俺は、日本の『国立天文解析センター』で研究員をしていた。……この施設名に聞き覚えはないか?」
その瞬間、彼女の表情が凍りついた‥‥恐怖とは違う、驚愕の色が浮かぶ。
「国立……天文、解析センター……?」
「ああ。そこでブラックホールの観測をしていたんだが……」
「嘘……」
彼女が震える手で口元を覆った‥‥怯えではなく、信じられないものを見る目で善輝を見つめ直す。
「あなたが、あの『告発』をした職員さんなの……?」
「!」
今度は善輝が息を呑む番だった‥‥なぜ、彼女がそれを知っている?
「告発……? まさか、俺がネットカフェで書き込んだ……」
「やっぱり、そうなんだ……!」
彼女の目から、大粒の涙が溢れ出した‥‥彼女は善輝に駆け寄ると、その腕(異形の腕であることなど忘れたように)を掴んだ。
「私、見たんです! 『地球があと10年で滅びる』っていう書き込み! 」
「あ、ああ……」
「みんなデマだって笑ってたけど、私には嘘に見えなかった。必死な叫びに見えたんです。だから、私は……」
彼女の言葉に、善輝の中でバラバラだったピースが噛み合った‥‥彼女は、あの書き込みを見たのだ。そして‥‥。
「……君は、それを拡散したのか?」
「はい。投稿された直後に。……そうしたら、すぐに黒い服の人たちがドアを破って来て……」
彼女の言葉が詰まる……耐え難い記憶が蘇っているようだ。
「家にいた、両親が……」
「ッ!?」
彼女はその場に崩れ落ちた‥‥
「施設にいる3ヶ月間、ずっと後悔してました。私がバカな書き込みを信じたせいで、お父さんとお母さんは殺されたんだって。ただの悪質なデマのために、家族を殺してしまったんだって……!」
嗚咽が森に響く‥‥善輝は言葉を失い立ち尽くした。
吐き気にも似た、強烈な罪悪感が胃の腑を焼く。
(俺のせいだ……)
彼女がここにいるのも、彼女の両親が殺されたのも、すべては俺のせいだ‥‥
俺があんな書き込みをしたから、俺の言葉をこの子が信じてしまったから、見ず知らずの一般人がその正義感ゆえに全てを奪われたのだ。
「……すまない」
善輝は膝をつき、絞り出すように言った‥‥
かける言葉が見つからなかった。ただ、事実を告げることしかできない。
「俺が書いたんだ。……あれはデマじゃない。本当に、地球は滅びるんだ」
善輝の声に、彼女がハッと顔を上げた‥‥涙で濡れた瞳が、善輝を見つめる。
「……本当、なんですか?」
「ああ。政府は自分たちだけ助かろうとして、事実を隠蔽した。俺たちの告発は、真実だったんだ」
その言葉を聞いた瞬間、彼女の表情がくしゃりと歪んだ‥‥それは悲しみとも、安堵ともつかない、複雑で強烈な感情の奔流だった。
「よかった……」
彼女は地面に手をつき、子供のように泣きじゃくった。
「嘘じゃ、なかった……。私のしたことは、間違いじゃなかった……! お父さんも、お母さんも……嘘のために死んだんじゃなかった……!」
それは、地獄のような3ヶ月間、彼女を最も苦しめていた「自分の行動への疑念」が晴れた瞬間だった。
両親の死は消えない。悲しみは癒えない。だが、「自分の愚かさのせいで犬死にさせた」という呪いだけは、善輝の存在によって解かれたのだ。
善輝は、泣き崩れる彼女の背中に触れることもできず、ただ強く拳を握りしめた‥‥彼女の涙が、善輝の心に焼き印のように刻まれていく。
(許さない……)
自分を捨てた連中への恨みなど、今の感情に比べれば些末なものだった‥‥
この子の涙に報わなければならない。彼女から全てを奪った連中を、一匹残らず断罪しなければならない。
「……名前を聞いてもいいか」
善輝は静かに問うた。彼女は涙を拭い、真っ赤に腫れた目で善輝を見上げた。
「……立花……結衣です」
守らなければならない‥‥
善輝はこの時、復讐者としての誓いよりも強く、一人の男としての誓いを立てていた。




