空からの墜落者
異世界に落ちてから、3年の月日が流れた‥‥
かつて善輝が独りでログハウスを建てた場所は、今や要塞化していた。
周囲の木々は切り払われ、石と鉄で作られた防壁が拠点を囲んでいる。
その内側には、数百人の獣人たちが暮らす集落が形成されていた。
当初は十数名の小部族だったが、「森に白き守り神がいる」という噂が風に乗って広まったのだ。
結果、西の帝国軍に追われた難民や、魔物に住処を奪われた他の獣人部族たちが救いを求めて集まり、善輝は労働力確保のためにそれらを全て受け入れた。
彼らは善輝を「主」と崇め、彼の指示に従って農耕を行い、鍛冶をし、そして軍事訓練に励んでいた。
「主よ。南の鉱脈から、指定された『黒鉄』を採掘してきました」
「ご苦労。精錬炉へ回しておけ」
善輝は玉座ではなく、指揮官席に座り、報告に来た獣人に淡々と指示を出した。
3年という時間は、彼を変化させていた‥‥
伸びた髪を無造作に束ね、体つきは引き締まっている。だが何より変わったのはその瞳だ。
かつてのひ弱な研究者の色は消え、群れを統率する絶対者の覇気を纏っていた。
(順調だ。だが、まだ足りない)
善輝は手元の地図(羊皮紙)に目を落とす。基礎的なインフラは整った。
だが、あの時見た巨大な宇宙船の設計図、その艦隊を撃ち落とせる「対空魔導砲」の開発にはより高度な術式と素材が必要だ。
(今のペースでは、完成までに10年はかかる。……向こうの時間であと何年残っている?)
その時だった‥‥不意に、上空の「歪み」が大きく脈動した。
キィィィィン……という高周波の音が響き、空気がビリビリと震える。
「主よ! 空が!」
見張り役の獣人が叫ぶ。善輝は弾かれたように空を見上げた。
「まさか……!?」
背筋に冷たいものが走る‥‥地球軍か?
早すぎる‥‥計算ではまだ5年は経っていないはずだ。だが、向こうが技術革新で予定を早めた可能性もある。
「全員、遮蔽物に隠れろ! 戦闘準備!」
善輝が叫ぶと同時に、歪みの中心から何かが吐き出された‥‥それは放物線を描くことなく、真下の森へと垂直に落下していく。
その時、強化された善輝の動体視力が、落下する「それ」の姿を捉えた。
「……ッ!?」
手足がもがくように動いた‥‥船でもミサイルでもない‥‥それは人間だった。
バキバキバキッ! ドサァッ!!
生々しい衝突音が響く‥‥要塞のすぐ近く、木々が密集するエリアだ。
何層もの枝がクッションになったようだが、生身の人間が無事で済む高さではない。
「人間が……落ちてきた?」
善輝は即座に重力制御で体を浮かせ、落下地点へと一直線に飛ぶ。
偵察兵か? いや、パラシュートも装備もなしに投下される兵士などいない。だとすれば‥‥。




