科学による狩猟
「ヒィッ……あ、ああ……」
母親らしき獣人が、子供を背に抱えて蹲る。
赤熊が巨大な顎を開け、頭から噛み砕こうとした、その瞬間だった‥‥
「重力指定!」
頭上から降ってきた怒声と共に、赤熊の周囲の空間が歪んだ。
ドォン!!
見えない巨大なハンマーで叩かれたかのように、赤熊の顔面が地面にめり込む。
「グゥッ!?」
何が起きたか理解できず、赤熊がもがく‥‥だが、30倍になった自重が鎖となって全身を縛り付け、指一本動かせない。
獣人たちが呆然と見上げる先、白い肌の男がドサリと着地していた。
その顔は、冷徹な観察者のものではなく、激しい憤りを隠さない一人の人間のものだった。
「動くな、熊公。……座標がずれる」
善輝は右手をかざし、数式を構築する‥‥
飛び出してしまった以上、やるしかない。魔法ではない、物理現象の強制執行だ。
「圧縮」
バキバキバキッ! 赤熊の首の骨が、重力によって一点に圧縮され、破裂するような音と共に砕け散った。
森の王は断末魔を上げる暇もなく絶命し、巨大な肉塊へと変わった。
静寂が訪れる‥‥
獣人たちは、助かった喜びよりも、目の前の「白い男」への根源的な恐怖に支配されていた。
赤熊を一撃で葬る力、人間離れした白い肌と、金色の血管。
それは彼らの知るどんな種族でもなかった。
「はぁ……やってしまった」
善輝は小さく溜息をつき、乱れた呼吸を整えた。
完全に感情に流された行動だった。科学者失格だ‥‥だが、不思議と後悔はなかった。
「あ……あ……」
リーダーの獣人が血を流しながら這いずり出て、善輝の前で土下座をした。
「お、お助けください……! 命だけは……子供たちの命だけは!」
彼らは勘違いしていた。もっと恐ろしい捕食者が、獲物を横取りに来たのだと。
善輝は少しバツが悪そうに視線を逸らし、赤熊の死体を見た。
「……そいつの魔石が欲しかっただけだ。勘違いするな」
それは半分嘘で、半分本音だった。
自分の甘さを隠すように、善輝は努めて冷淡に振る舞いながら、ナイフを取り出した。




