森の住人たち
サバイバル生活にも慣れてきたある日、善輝は森の中で奇妙な痕跡を発見した。
折られた枝、踏み固められた草、そして焚き火の跡‥‥
明らかに知性ある存在の痕跡だ。
(魔物じゃない。道具を使う何かがいる)
善輝は警戒レベルを引き上げ、痕跡を追跡した‥‥
数キロほど進んだ先の川辺に、その集団はいた。
狼のような耳と尻尾を持つ「獣人」たちだ。数は十名ほど。衣服と呼ぶにはあまりに粗末なボロ布を纏い、全員が骨と皮ばかりに痩せ細っている。
(獣人か……。ファンタジー小説の定番だな)
善輝は茂みに身を潜め、光学迷彩の魔法(光の透過率操作)を展開して観察を続けた‥‥
彼らの状況は悲惨に見える。大人は怪我を負ってぐったりとしており、子供たちは空腹を紛らわせるためか、川の水を手ですくって必死に胃に流し込んでいる。
(見た目は弱りきっている。だが……)
善輝は動かなかった。
ここは地球ではない。魔法や特殊な能力が存在する世界だ。彼らが本当にただの弱者なのか、あるいは人間を油断させて狩るための罠なのか、判断材料が足りない。
かつて信頼していた組織にあっさり切り捨てられた経験が、善輝に過剰なまでの慎重さを植え付けていた。
(迂闊に接触して敵対されたら厄介だ。こちらの拠点がバレるリスクは犯せない)
善輝は接触も排除もせず、判断を保留することにした‥‥
まずは情報を集める。彼らが何者で、どんな能力を持ち、敵になり得るのか。
それを完全に見極めるまでは姿を見せるべきではない。
彼は息を殺し、木の上からじっと彼らの行動を監視し続けることにした‥‥。




