ダメで元々
インドラウルフはこちらめがけて突っ込んできた。
走った後には稲妻のような光が放たれ、雷が落ちたかのように草が焦げていた。
雷の化身のような狼。稲妻のような速さでアカネに突っ込んだのだった。
アカネはものすごい反射神経でインドラウルフの攻撃を剣で素早く受け止めていた。
だがしかし、そのあまりにも速い速度で突っ込まれた故か、相殺しきることは出来ないようでアカネは吹っ飛ばされていく。
「アカネ!」
「ガルルルル……」
「そう来るだろうね……。標的の一人が遠くへ吹っ飛ばされたからねぇ……」
狙いは私だった。
私があの攻撃を受ければ間違いなくワンパン。私にはアレを躱せるとは思えない。
実質詰みみたいな状況である。だがしかし、まだなんとかなる気もする。
「ガルッ!」
「テイム!」
青い光がインドラウルフを包み込む。
テイムできるモンスターなのかこいつ。それは別にいいとして、失敗するだろう。だが、テイムには相手の行動を中断させる効果があるらしい。
吹っ飛ばされたアカネの復帰時間を稼ぐ程度はできた。あと1回のテイムで凌ぎ切れるかどうか……だが。
案の定、青い光は赤くなって消えていく。
「ははっ! さすが! そういうことするよねクオン!」
「ヤケクソだったがね。説明には載っていたがこれはテイム出来る魔物にしか効果はないと聞いたから」
「ならあいつテイムできんだ。ま、ほぼほぼ無理ゲーだろうけど」
アカネは剣を構えて走り出す。
「剣術奥義"岩融"!」
アカネは鋭い突きを放つ。
衝撃波が周囲の草木も巻き込み、インドラウルフに命中した。
「うっひょー、全然効いてね〜」
「あまりダメージを負った様子がないな」
「みたいだね。ダメージ軽減スキル標準装備なのかな。また攻撃が来るな。クオン、備えて」
「わかった」
私はブックを構えながらタイミングを待つ。
私のところに来たらテイムで止める。私が生き延びる方法はそれだけなのだ。
アカネは私を庇っている余裕はないだろう。
ただ……そんなタイミングで反応できるか?
無理だ。だから……ここはやりたくないが。
「テイム!」
山勘だ。
私はテイムと唱えると青い光がインドラウルフに当たり、私の目の前で止まる。
この止まっている時はお互いに干渉できない。攻撃した瞬間に強制的に失敗となり手痛い反撃を喰らう。それは避けたい。
「奇跡的な確率でワンチャン……」
「ないだろう。そんな奇跡……」
と、言った矢先だった。
包み込んでいた青い光は赤い光になって消えなく、逆に青い光がインドラウルフを包み込んだのだった。
「あ」
「は?」
その結果に、思わず私たち二人は固まる。
そして。
「ええええええええ!?!?」
「……驚いた」
インドラウルフは攻撃してくることもなく黙ってこちらを見ていた。
そして、私を見たかと思うと、ペロリと私の顔を舐め、そして、ピュンピュンと稲妻のような速さでどこかへ行ったかと思うと、すぐに戻ってきた。
口に何かを咥えている。
それは、インドラウルフを小さくしたような、まるで子どもの……。
「……この子を育てろというのかい?」
と訊ねると理解しているかのように頷いた。
鑑定してみると、インドラウルフの子どもと表示されており、レベルは1。
まあ、最初からこのワゴン車みたいなサイズの狼はテイムできないわな。
私はインドラウルフから子どもを授かると、インドラウルフは走り去って消えていく。
雲がどんどん消えていき、先ほどまでの快晴になったのだった。
《インドラウルフをテイムしました。名前をお決めください》
「な、名前?」
「あ、そうだ。テイマーブックに登録する作業だね。名付け必須だからね」
「そうか……。ならば」
私はインドラウルフからとって。
「インダラ。お前はインダラだ」
「わんっ」
《インドラウルフのインダラの紋章がテイマーブックに刻まれました》
そのアナウンスとともに、目の前のインダラが消えていく。
どうやら紋章となって登録された魔物は別次元に行くようだ。ブックを開いてみると確かに1ページ目には凛々しい狼の紋章が描かれている。ちょっと豪華なのはレジェンドモンスター仕様だろう。
「……マジか」
「これってプレイヤー初、だよ」
「そうなの、か?」
「遭遇するのは稀だし、ボスモンスターと同じ扱いだと思ってるからみんな……。マジでテイム出来るんだ……」
「ビギナーズラック、様々だな」
「そ、そうだね。ま、とりあえず……」
アカネは右手を挙げる。私も右手を挙げ、勢いよくハイタッチ。
「っしゃああああああああああああ!!!」
「頑張ったな」