レジェンドモンスターとの遭遇
再び戦いの地へと赴く。
テイマーブックを片手に、右手をテイムしたい魔物の方に向けてテイムと唱えるらしい。
私は目の前にいる一角ウサギを見据え、構える。
「テイム」
その瞬間、私の右手から青い光が高速で一角ウサギめがけて放たれる。
青い光はウサギを包み込み、そして赤色に光った。
「失敗だな」
「あくまで確率だからねー。てか失敗ってよくわかったね」
「なんとなく、な」
ステータスを見てみるとMPが減っている。一回のテイムに10消費するようで、私の今現在のMP総量は30だから、あと2回か。
MPは街に入るか時間経過で回復していくらしいので困ったら街へ避難するのがいいらしい。
「確率を上げるには弱らせることなんだけど、私はレベル差ありすぎて弱い装備でもワンパンだからねぇ。最初のテイムはクオンに頑張ってもらうしか」
「そうか。わかったよ」
あとテイムチャンスは2回。
目の前の一角ウサギの体力は満タンだ。確率も低いんだろう。
体力を削って、テイムを狙う方が堅実か。だが、それをするにはそこまで私一人で戦わなくてはならない。
魔法を使えない今、戦うといったらこの短剣でだろう。短剣スキルは誰でも持っているらしい。
「……いや、やめだ」
私は短剣をしまう。
「戦わないの?」
「現実的じゃない。私はさっきのように、後衛職の魔法使いでああだったんだ。短剣で戦うとなると最悪死ぬ」
「あー」
「だから、体力フルマックスでもテイムするしかない。まだこちらの方が安全だ」
街も比較的近い位置にある。
ダメだったらまた街へ戻り、また一角ウサギをテイムするという方針で最初は攻めるべきだ。戦闘から逃げられないというわけでもない限り……。
その時だった。
明るく雲ひとつなかった空がどんどん暗雲に包まれていく。
日光が徐々に遮られ、ここら辺りは夜のように真っ暗になったのだった。
「なんだこれは? ゲームとはいえここまで早く天候が変わるものなのか?」
『えっ……』
『やばっ!?』
コメント欄は騒然としていた。
アカネの方を見ると、アカネも驚いているのか何も言わずにあたりをキョロキョロと警戒している。
「ん? 一角ウサギが消えている」
逃げた、のか?
私を警戒して逃げたわけではないだろう。それならとっくに逃げているはずだ。
逃げる要因として考えうるのは、強大な力を持った何かが近くにいるということ。
「ヤバいモンスターがいるみたいだ。一度街へ避難して……」
「それは勿体無いよ!」
「勿体無い?」
「マジか……。私も初めて遭遇するよこれ! 噂には聞いてたけど!」
「あぁ?」
さっぱりわからない。
すると、雲から突然落雷が降り注ぐ。あたり一面落雷の雨で覆われる。
「雷に当たっただけで死ぬだろう」
「いたっ、近づいてきてる」
「なにがだい」
「クオン、私は本気で戦うから隠れてて。クオンは戦うと即死するから」
「わかった」
アカネは装備をガッチガチに整え、剣を構えていた。
その瞬間、ズカズカと目の前を歩いてきたのは狼みたいなフォルムの魔物。毛が雷のように逆立ち、歩くたびにビリビリと電気が流れていくのがわかる。
「わーお、かっこいいじゃないか!」
「でっしょー!? あれかっくいーよね! あれはこのゲームの一つのウリ、ごく稀にエンカウントする超強敵モンスター、通称レジェンドモンスター! そのレジェンドモンスターの一頭、雷を操る狼、インドラウルフ!」
神の名を持つ狼か。
「あれは私も出会ったことなかったんだー! なにせ超レアだからね! アレと戦うと勝っても負けても素材もらえてウマウマなんだぁ」
「そうなのか。頑張れ」
「うん、頑張る」
「チャチャ入れたりするかもしれんが」
「構わないよ! むしろ素材欲しいなら積極的に参加して!」
まあ、参加したところでワンパンされて沈められるのがオチだろうがね。