プロローグ
居酒屋にて。
焼き鳥ねぎまのタレを頬張る。
「くぅーーー!」
焼き鳥が美味い。
焼き鳥を頬張りすぐに生ビールを口の中へ注ぎ込む。酒は百薬の長とはよく言ったものだ。
私は二本目を取りながら、居酒屋にわざわざ呼び寄せた私の友人、雨宮 茜から話を伺うことにした。
「それで? 私に頼みたいことがあるってなんだい? 私はあいにく暇ではないのだが」
「知ってる。仕事辞めてきたんでしょ?」
「そうさ。一年未満でね」
仕事を辞めた理由は主にハラスメントだ。
セクハラ、パワハラ……。それだけだったら良かったが、ほぼ毎日の残業など労働基準法フル無視のいわゆるブラック企業だった故に。
辛抱強いと自分では思っていたが、流石に労基法すら守れない会社に居続けるのはメンタルにくる(ブチギレて暴れそうになる)前に辞めてきた。
ブラック企業は精神衛生上良くない。
「だから職場を探してる最中なんだよ。君だから付き合っているが、君以外なら無視しているからね。……で、本題は?」
「端的に言うと、私と一緒にゲーム実況しませんか!」
茜は両手を合わせて頭を下げてきた。
茜は今なお人気のゲーム実況者であり、プロゲーマー。私にゲームを頼み込むとは理由が知りたい。
私はお世辞にもあまりゲームをプレイしてこなかった。小さい頃から勉強が好きだったのもあり、暇さえ見つければ勉強に勤しみ、良い大学に進学し卒業している。それまでの人生でゲームをプレイした記憶など指で数えるほどしかない。
「何故だ?」
「えっと……。やっぱ一人じゃ楽しくないなーって思ってさ! 昔から久遠とゲームやりたかったの! でも大学行っちゃったし就職したって聞いて諦めたんだけど……。辞めて暇なんでしょ!? チャンスだって思って!」
「なるほどな。だがすまないね。私にはゲーム機材を買える余裕もない。それに、君がやっているゲーム"アナザーディメンションオンライン"だったか……。それはVRMMOと呼ばれるゲームで、機材もものすごくデカい。私の家はボロアパートだから置くスペースもない」
「うぐぅ……」
「現実的な話、無理だ。私は君のようにゲームは上手くないし、金に余裕があるわけでもない。だから……」
諦めてくれと言おうとして口を開こうとすると茜が声を上げる。
「私の家に来て良い! 機材も私が買う! それでどう!?」
「どうったって……。行くのは別に構わんが収入はどうなる? 私はお前に寄生するつもりはないぞ」
「一緒に配信してくれるんなら広告料とか折半! 私が給料払うから! ゲーム実況という仕事してくれるなら!」
「……いいのか?」
「いいよ! 私のわがままだし! だからお願いぃ〜……」
深々と頼み込んでくる。
茜の家は結構広かったはずだ。むしろスパチャ、広告料で結構稼いでいると聞くし貯蓄もあると言ってたな。
茜の家に住み込みでゲーム実況か。うーむ。
まぁ、金とか云々を抜きにして考えてみよう、
茜はブラック企業みたいなことにはならないだろう。きちんと休ませてくれるはず。そういった面はきちんと考えてくれるし、煩わしい人間関係もほぼほぼない。ゲーム上ではあるかもしれんが、あくまでゲーム上だ。
「うーむ……」
「そこをなんとか!」
仕方あるまい。
仕事が見つかる保証はないんだ。今手を差し出してくれている茜の手を取らないで、このまま突っ走っても闇しかないだろう。いつ光が見えてくるかわからん道だ。
そこを取るくらいなら、安定をとった方が良いだろう。
「わかった。やろうか」
「いいの!?」
「あぁ。よろしくな、茜先輩」
「先輩辞めて! 茜でいいから!」
「そうか……。大将、ビール追加を頼むよ」
酒が美味い。