第九話 繋がる線と
「人さらい……っていうのも語弊があるけど、一般区画では定期的に人がいなくなるっていう事件がある」
「……はぁ」
地下にて、機材などを視界に収めながら発せられた言葉に思わず反応が遅れた。ルコンが連れて来た人間は、どこか捉えどころのない気配を湛えたまま、視線も向けずに言葉を続ける。
「いなくなるのは決まってあまり周囲と交流してこなかった人たちだ。一人で生活していて、発覚までに数日かかるような。地区に一貫性はなくて、どこでも、似たような人たちばかりいなくなる」
「……偶然では?」
「偶然だったら良かったんだけどな。必ずいなくなる数日前に白衣を着た集団が周囲にいたという噂が立つ、何故か禁句のようにいなくなった人のことを避けるように言葉を濁す」
白衣。そう聞いて真っ先に思い出したのは研究部門の職員達だった。……別に今更人体実験しているかもしれないと思い至ったところでどうとも思わないが、話の脈絡がなさすぎて反応に困る。
ノエルさんは一切こちらに視線を向けない。行動だけはずっと情報を集めるための動作を行っていて、言葉だけが俺に向けられている。この場で、わざわざ二人しかいない状況で口に出したというのはなんらかの意図があると思われるのだが、その真意を汲み取るには些か情報が少なすぎる。
「……仮に、その集団がこの組織に関連性があるとして。そこからこの事件に繋がるものがある、と?」
「さっき、ここのことを教えてくれた職員が”偽装出来る魔道具”の話をしてたでしょう?」
「あぁ、確か人工的に特性を抽出して作り出されたとかなんとか」
「その偽装出来る特性は、綾華の……入江綾華がかつて俺達に探してほしいと持ち込んできた依頼の、探し人なんだぞ」
「……ほう」
特性というのは基本的に自己への影響を及ぼすもの、あるいは自己の周囲数メートル程度に作用することが主であり、世界を書き換える、他者に干渉するといった能力は発現自体が珍しい。一重に偽装といっても様々な原理があるので一概に”そう”とはいえないが、少なくとも監視……青藍の能力下で青藍に気付かれることなく地下を制作するというのは、相当高度な技術と権限を有するはずなのだ。
「つまり、かつて一般区画にて拉致された入江さんの探し人がヒュリスティックの中……付け加えると恐らく研究部門によって囚われている、と?」
「書類を見ないと何とも言えないけど、その可能性は高いと思われる」
成程、それなら入江の行動にも説明がつく。白衣を着た集団などどう頑張っても目立つ存在でありながら行方不明者が見つからない理由、誰もが禁句のように避けるのもヒュリスティックがどういう場所かを知っていれば自然だろう。
「分かりました。研究部門の方にコンタクトを取ってみましょうか」
「助かります。それと……」
ノエルさんが一度言葉を切る。地下に来て初めてこちらに向けられた瞳は、澄んだ水底のように深い昏さを纏っていた。
「収容所時代の記録は、どこかにありませんか?」
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