第八話 会話の奇術師
「えっ酒見事務所のノエルさんがいる!」
「うわぁ本物だ!?」
「嘘だろ遂にヒュリスティックに移籍した……!?」
有名人だなノエルさん。魔術部門の先輩方のざわめきに笑顔と挨拶で対応してるノエルさんを三人揃って観察する。アランさんは畏怖方向、東雲は腫れ物方向の遠巻きだった、好感情で遠巻きにされる状況と言うのは中々に珍しい。
「有名なんですね」
「酒見事務所といえば、確実に依頼をこなしてくれる事務所として有名なので……」
「依頼というからには達成が普通では……?」
「そうでもないです」
アランさんの素朴な疑問に東雲は眉を下げつつ返答する。アランさんは割と任務失敗とは無縁の実力だろうからピンと来ないんだろうな。師匠が以前身の丈にあった任務だけ受けろと言っていたのは、実力を見誤って依頼をこなせないということは割と発生するから、らしい。故に達成率が高いというだけで信頼度は跳ね上がるとかなんとか。
「今回は怪異の異変についての調査に来たんだぞ!」
「怪異の異変?」
「あーアレですか、最近侵入被害多いっすもんねぇ」
「でも八割うちの上司のせいじゃね?」
「毎年恒例憑依型君以外は……?」
「俺この施設内に怪異が入って来ることはないと思ってたわ……憑依型は除く」
「歴代の事件でも怪異が侵入したことはないって言ってたもんなー。憑依型以外」
「ここまで来るとなんで憑依型くんは何度も入って来れるのか気になってきたな」
「あれじゃね?憑依型は肉体がないから……」
「そういうもんなの?」
「だってここの鉄壁システム、監視技術の高さと対応力の高さが由来だろ?」
「あーじゃあ上司が勝手につけた地下からなら侵入し放題……」
「許せねぇな上司……」
ノエルさんの発言を皮切りに魔術部門の先輩方から興味深い発言がどんどん出て来る。元々流れるように会話をする人たちだけれども、こんなに情報が出て来るとは思わなかった。
「監視されてるのに地下作れるのすごいな!」
「いや本当にそうっすよ。何でも……偽装?出来る魔道具とかなんとか」
「あぁ言ってたな。どっかの部門から貰ったんだっけ?譲り受けたんだっけ?」
「交渉して入手したんじゃなかったっけ?」
「そうそう。人工的に特性抽出して……ええと」
「事実上の提携じゃなかったっけアレ。魔術式を開発したって自慢してた上司いたぞ」
「あの上司が真実を言うことあるんだ……」
「あ、あの魔道具の詳細というか、詰められてた特性の主の資料見たことあるわ。整理しろって押し付けられた中にあったあった」
「マジかよ杜撰じゃん」
「いや本当にそう。必要なら写し探しますよ?」
「ホントか!?」
「はい。ロイドーあのプリンタ貸してー」
「いやそれは別にいいけど、どう……おいメガネ、お前眼鏡に何で俺の試作品つけてやがる!?」
「いやぁホラ!自衛のために……ね?」
「絶対ドッキリに使う気だ!」
「俺も持ってるー!」
「俺も俺も」
「そんなお手軽試供キャンペーンはしてませんけどぉー!?」
「寝ぼけたお前が配ってたよ」
「目覚めとけ俺の理性!!!!!」
……うん、通常運転だな。一先ず重要そうな書類を入手出来る算段がついたからか、騒がしくなった先輩方と少しだけ会話してから戻ってきたノエルさん。俺達が話に入る隙なんてなかった。手際が良すぎる。
「あとはちょっとその地下をみたいんだけど、場所は分かってるのか?」
「ええ。志葉さん、東雲さん。お二人はここに残って彼等から例の書類を受け取ってもらえますか?」
「分かりました」
「分かりました」
地下……がどういう場所か分からないが、俺達に待機を命じたのはあまり見せたくない場所だから、だろうか。これまでにも何度か地下にアランさんだけが行くことはあったが俺達は必ず理由をつけて待機を命じられている。
二人が地下へ向かうのを見送ってから、俺と東雲はまだ騒がしい先輩方の方へと足を向けた。
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