繕う笑みは仮面であり、装う無垢は化粧である
毅然とした、どちらかといえば模範的な職員。そういう風に見せているのはもう散々知っている。腕の中にいる小動物もそれは理解しているのだろうが、ポーカーフェイスを保てるかは別である。
「み、みぃ……」
「喋ったらバレるよ」
「みぃ……」
この生き物はどうやら主が笑みを浮かべ、余所の職員と対話することが苦手らしい。別に俺だってあの笑みに関してはそう見ていたいものではないが、それよりも余程腹が立つのは周囲の職員達の認識である。
『権力だけの無能』
『悪魔の片割れ』
本当に腹が立つ。彼奴がどうして重戦闘区域から出て来るのか、片割れが出てこないのか。重戦闘区域がどういった場所か理解していればその異質さに気付きそうなものなのに。
「……連れて帰ろうかな」
「み!?」
俺の言葉に慌てたような反応を見せる小さいの。さっきまで連れて帰りたがってたのはコイツも一緒なのに、律儀というか冗談が通じないな。……まぁ、本気だったんだけど。
「みゅ、みーみ」
「別にやんないよ。流石にもう暴れられたらちょっと厳しいし」
「み……」
視線はまだ疑いを残してたけど大人しくなった。話をすればすぐ大人しくなるのがこの小さいのの良いところだと思う。騒がしいのは話を聞かせるまでに落ち着かせないといけないくらいにはちょっと……うん。
取り敢えず今日の見回りは終わったんだろうか、職員達に挨拶だけして戻っていくアランの後を追う。流石にまだ小さいのは下さない。小さいのもちょっと揺れてはいるが腕から抜け出そうとはしない。
コンちゃん達がいるエリアまで来たところで、漸く小動物を下す。アランもすぐに振り返り抱え上げれば、小さいのはその小さな手でしきりとアランの頬に触れていた。
「心配性だねみう。俺は元気だよ」
「み……」
「俺達にその笑み浮かべてる時点で重症でしょ」
「この後まだ彼らの様子を見に行くんだぞ」
「みぃーみ!」
本人にも自覚がある”表向きの笑み”。重戦闘区域ではまず見ないそれは俺とこの小さいのには勿論、片割れと呼ばれるコイツの弟とかもう一人の職員とか、とにかく重戦闘区域にいるほぼ全員からヤメロと言われている。別に変な笑みだから、とかじゃない。ただ、計算されつくした完璧な笑みというのは往々にして不気味に見えるだとか、普段の笑い方と違うから嫌だとか、……極一部は別のあくどい笑みが過るからやめてほしいとかそういう風に思われているだけで。
「別に顔出さなければ良いじゃん。コンちゃんいるんだからいいでしょ」
「良くないが?」
「みゅ!」
「名案じゃないよみう、考え直して」
俺と意見が合うなんて珍しい。普段秩序寄りである小さいのはどちらかといえばアランと同調するので俺と意見が合致するのは何かしらある。
「……取り敢えず顔見せるかどうかは別として行こうよ。正直コンちゃんだけ置いて来てるの不安じゃん」
どうせコイツは心配を伝えても強情になるだけだ。なら、我儘という形で連れ帰る方が確実だろう。その我儘が小さいのなら更に効く。本当に無垢であるかは置いておいて、この小さいのはそういうあざとさはちゃんと持ち合わせている。
「お前はルコンを何だと思ってるんだ……さっきルコンいるなら良いとか言ってただろ」
「み」
「流石にそこまで酷くないよみう……」
あの一文字に一体どんな意味が込められていたんだろうか。アランはみうの言語を理解しているようだが、これはあくまでも特殊例である。コイツの弟は少なくとも自分の遣霊が何を言っているかは理解してない。
「コンちゃんだってお前が連れてきた相手には相応に気を遣うだろうけど、それ以外の相手には絶対被害出すじゃん」
「別にそれは想定……あぁ、出来れば中戦闘区域の職員は勘弁してほしいな。人手が常に足りない」
「まぁもう手遅れっぽいんだけど」
もうそろそろ良いだろうと先行して部屋に入る。室内では朝別れた面々の他に五人程度の被害者と……俺の大事な大事なワカバがいた。
「オ、セイランダ」
「ワカバおいで」
「ン」
とてとてと慣れない地上を走ってきたからそのまま抱え上げる。慣れてるアランやコンちゃんが何か言うことはない。ワカバは俺の腕の中で小さいのに手を振ってたけど。
「すみません。……状況を聞いても?」
「ふっふっふ……――――――慈悲はない」
「すみませんお二人共説明をお願いします」
華麗なスルーを決め込んだアランは多分気付いていないんだろう……そこで伸びてる被害者、昨日そこの皇に突っかかってきた職員だよ。
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