第二十四話 閑話、幻影が如く
「ちょっと良いか?」
「……はい?」
声を掛けられた皇さんが振り返る。ややくすんだ銀髪の職員……と思しき人が、皇さんに向かって声を掛けている。困惑が透けるような声で返事をする皇さん。
「少し良いか」
「…………別に、構いませんけど」
「とあー?たーて?」
「……」
皇さんに促されるように三人とも近くの椅子に座る。膝上に乗ったスミレさんととあは、それぞれじっとお相手の顔を見ていた。
「説明が遅れたな、俺はあやめ」
「たてて!」
「あ、東雲泰誠と言います。この子はとあ」
「ととちちゅー!」
「あぁ、よろしく」
とあにも礼儀正しく挨拶をしてくれたあやめさん。スミレさんが眠ることなく視線を向けているのは気になったけれど、どうやら皇さんにとっては知り合いのようだった。
「どうしたんですか」
「入江の様子を聞きたい」
あやめさんの言葉に皇さんは沈黙を二つ。何を考えているのか良く分からない表情で、沈黙の意味を開示しないまますまし顔で口を開いた。
「入江なら、怪異の討伐の際に誰かの幻影を見たみたいで少し消沈してましたけど、悲しみ以上に覚悟決めたみたいであんまりショックは受けてないように見えました」
「……あまり良い兆候ではないな」
「はい」
思案するように目を伏せるあやめさん。やけに皇さんとスミレさんはあやめさんのことを眺めている気がするが、何か興味を引くものがあるのだろうか、向けている感情に警戒や敵意などはなく、ただ純粋に観察、といった風なので指摘すべきかも分からず口を閉ざしてしまう。
「入江なら医務室にいますけど」
「遠慮しておく、気を遣わせるだけだ」
「そうですか」
不器用なひとだな、と思う。こっそりと皇さんに様子を聞くくらいには心配しているのに、本人にはそのことを一切悟らせないように立ち回る辺りが。きっと驚きこそすれ入江さんには負担にならないとは思うのだけど、他者が指摘することでもないだろう。
「伝言くらいなら受け取りますが」
「……いや、そこまでは」
「(むい)」
無言でイデアを突きつけるスミレさん。真似するように皇さんも分裂したイデアを押し付けている。……録音機能でもあるのだろうか、イデアならありそうなのが判断に困る。
「……じゃあ、一言だけ」
「(むいむい)」
「俺達は聞きませんから、好きにどうぞ」
スミレさんの行動の意味を把握したんだろう、皇さんが一度小さなイデアを引っ込めてスミレさんが抱えていた方のイデアをあやめさんへと手渡す。渡されたあやめさんは信じられないものを見る目で二人とイデアを交互に見ていたけど、ややあってからイデアに顔を押し付けるようにして何事かを呟いた。
「じゃあ、俺は用事があるから」
「はい。それではまた」
「お気をつけて……」
「とぉ!」
その後、少しの雑談を経ていなくなったあやめさん。姿が見えなくなるまで手を振っていたとあと、結局最後まで眠ることなく見つめ続けていたスミレさん。完全に姿が見えなくなってから、皇さんがぽつりと呟く。
「……誰、だったんだろうな」
「え?」
「あれ。あやめさんじゃなかった」
こくんと頷くスミレさん。驚く私ととあには一切構うことなく、揃って首を傾げている。
「それは……一体、どういう」
「知らない人、だけど敵意とかはなかった」
「(こくこく)」
気付いていて、敢えて口を閉ざした意味。皇さんとスミレさん、二人が大丈夫だというのならそうなのだろう……不法侵入についてはいいんだろうか。その辺りに関しては二人共考えてなさそうなのが怖いところだけれど。
誰かの伝言を預かったイデアの尾が、楽しそうにゆらゆらと揺れていた。
面白かったらブクマや高評価お願いします。喜びます。




