第二十三話 貴方の盾に、貴方の傍で
『兄さんによろしくね』
「……」
黒色の髪に、宝石が如く輝く翠の瞳。奇襲とはいえ対処出来なかった、守護者と名乗るのも烏滸がましい失態である。
「……」
「しゅ」
「あぁ……すもも」
「しゅーしゅ」
さも当然の様に腰を下ろし、俺のことを見つめるすもも。そこには心配の色も軽蔑の色もない。ただ静かに、情報を吐けと催促されている。
「……一撃でした。対峙した時には実力差など感じさせないほど……正直、何故負けたのかも分かりません」
「しょん?」
不明なことばかりだった。痛みもなければ衝撃もない。急に意識が遠くなったと思えば、我に返ったときにはソウさんがゆらゆらと瞳を揺らして俺を見ていた。心配させたという事実だけは知れて、申し訳なく思ったのは記憶に新しい。
「……兄、とは誰のことでしょうね」
「しゅ」
「入江さんには弟がいますが……容姿が違いました。皇さんに兄弟はいないと聞いています。他に考えられるとしたら東雲さんですが……やはり違和感が残るのは確かでしょう」
「しゅーん」
仮に一瞬でも打ち合いが成功すれば、いくらでも情報の抜きようはあったのだ。部屋に入られていたのなら、まだ情報は取れていた。……本当にただ”兄”への言葉だけを残していなくなった相手に困惑が収まらない。
「俺を操って潜入……だとしたら、少し厄介ですね」
「しょーしゅ」
「今回はソウさんがいてくださったお陰で事なきを得ましたが……もう一度対峙したとして、俺では相手になりません。何らかのギミックを見抜けなければ」
「んー」
入江さんならば何らかの手段を取れるだろうか、シンさん程の圧倒的な力量があればこんなに考える必要もないのだと思うと己の力不足が悩ましい。
「大雅ーちょっと良い?」
「はい」
コンコン、という控えめなノックの音と共に顔を覗かせたソウさんが許可を得てからするりと入室してくる。すももの手招きに誘われるようにベッドに乗り上げたソウさんが、ぺたぺたと胸板あたりに触れるのがくすぐったい。
「怪我無い?一応幽撃だし藍沢先生にも無傷って言われてたけど」
「大丈夫ですソウさん。こう見えて私頑丈なので」
生半可な強度では傷どころか打ち合った武器の方が壊れるレベルなので、あまり心配する必要はない。あまりにも硬すぎて藍沢先生からは注射の針が刺さらないとのお叱りを受けているけれど。それに関してはどうしようもないので諦めてほしい。
「ソウさん、ご迷惑をおかけしました」
「迷惑じゃないよ。……でも、心配はしたからその謝罪は受け取っておくね」
「しょ!」
ソウさんとすもも、揃って微笑めば周囲に花が舞うかのような華やかさがある。ソウさんも怪我がないという言葉に納得したのか、触れ回る手を止めてがばりと覆いかぶさるように抱き着いてきた。
「……うん、大雅が無事で良かった」
「――俺も、貴方が無事で良かったです」
触れたら毀れてしまいそうなほど繊細なこの温もりを、他ならぬ自分のせいで失うかもしれなかったという事実に気が狂いそうだ。ソウさんに俺が敵うはずもないと分かっていても心配は尽きない。
改めて、強くなりたいという決意を新たにソウさんの背に手を回した。
面白かったらブクマや高評価お願いします。喜びます。




