第二十話 投げ出すほどの愛に隠しきれない情を込めて
「ばかだね、お前」
「なんな」
「俺が来なかったらどうするつもりだったの」
「なな」
「お?生意気か?」
「だんな!」
「はは、冗談よ冗談。……冗談でもいうべきじゃなかったね、ごめん」
「ななんな」
「慰めてくれるの?やっさしー」
「なんなんだ……」
「おいシレっと喋ってない?」
「んなん?」
「可愛い子ぶっちゃってまぁ……」
「んなぁ!」
『……綾華を、よろしくね』
なんだか、呼ばれた気がして指先が動く。レンの声だろうか、ぺちぺちと頬に触れる小さな温もりに触れたくて、気怠さの残る腕を持ち上げる。
「れん……?」
「だんな?」
顔の傍に寄せた手が何かに触れた。そのまま全身で抱き着かれた気配。あの怪異はどうなったんだろう、今はもう時計の秒針が鳴らす規則正しい音しか聞こえない。
どれくらいそうしていたんだろうか、少しずつ意識が覚醒してきて自分がベッドに寝かされている現状も理解してくる。レンはすりすりと手にすり寄ってみたり、かと思えば頬をぺちぺちと叩いてみたり、鼻歌を歌ったり、俺の傍でリラックスしているようだった。ゆっくりと瞼を押し上げる。
「あれ、入江起きてる?」
「……宇月、さん?」
「うんおはよう。調子はどう?」
「なぁん!」
元気よく返事をしたレンが頬をつつかれて、んなんなと抗議の声を上げている。近くの椅子に腰かけた宇月さんの質問に答えれば、問題なしという判断を下された。
「あの、怪異は……?」
「え?あー……俺は詳しく聞いてるわけじゃないけど、収束はしてる。というか入江が本体倒したって聞いてたんだけど、覚えてない?」
「無我夢中で……はっきりとは」
「……そう。まぁ取り敢えず今は原因究明のための捜査ってリアムさんが言ってたよ。被害はなかったけど再発されると面倒とか言ってた」
「そうか、じゃあ……」
「あ、お前は絶対安静ね。実力行使もやむなしって許可下りてるから」
「怪我の治療とは思えない発言だ……」
「でもお前、俺が言わなかったら普通に合流するつもりだっただろ」
さらりと思考を当てられて言葉に窮する。正直気怠さはあるがそれ以外の不調はないので絶対安静の意味が分からない。人員的にも無傷の人間を放置しておく余裕はない筈だ。
「だんな!ななんな!」
「レンの言う通り。お前は今回身体よりも心に深い傷が刻まれてる。お前はそれを痛みとは認めないだろうけど、そうして無視した末に取り返しのつかないことになる前に、かさぶたくらいは作っとくべき」
「……」
「へ、ん、じ」
「はい」
「なん!」
圧に負けて返事を返す。強制的ではあったけど返答があったことは事実だからか、それ以上宇月さんが何か言うことはなかった。
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