第十七話 夢に堕つ
地面を蹴るように駆けて、視界に映る首を刎ね飛ばす。すぐさま襲われていたルコンさんは後退して此方に叫ぶような状況共有を求めた。ルコンさんの本領は精神汚染だろう、理性なき相手には分が悪い。
「まずーい!レンくん達はソウくんに預けたけど!」
「助かります!とにかく数を減らす……!」
どこから来たのか、溢れ返らんばかりの怪異に思わず斧を握る手に力が入る。一体一体はそう強くない、ただ数が多いのが厄介なだけで。
獣型、四足歩行の生き物を模した怪異。獣と言ったがどちらかと言えば虫に近い足のつきかたをしている気がする。胴体から歪に伸びた頭部にはおおよそ目も鼻も耳もなく、頭部の半分を覆う口が此方を噛み千切らんと歯を鳴らしていた。
「俺怪異苦手なんだよねっ!」
「避難誘導お願いしていいですか!?」
「おっけー頑張る!」
言葉を発しながらも動きは止めない。通路という逃げ場のない状況で、壁も天井も足場にしてひたすら討伐を重ねる。リアムさんはどこだろう、回線は開いているが応答はない。ルコンさんに追い縋ろうとする怪異を適当に切り裂いた、出来るだけ視線をこの身に集中させる。
兎に角必要なのは手数だ。斧を両手で持ってずらすように動かす、サイズが半分程度となり二つへと分かたれたことを確認する余裕もなく左手に持っていたそれを投げた。
ブーメランのように怪異を切り裂きながら弧を描く斧。残ったもう一つは俺を狙ってくる好戦的な相手を刈るために。サイズの減少は射程の減少だ、気は抜かず出来るだけ最小限の動きで。戻ってきた斧はキャッチと同時にもう一度投げ出す。
『入江』
「っ皇!?」
『こいつら全員眷属。使役型の怪異だ』
「!!」
やけに弱いと思っていたが、眷属ならば納得出来る。使役型はほぼ無尽蔵に眷属を産み出すことが出来たはずなので、本体を叩かない限り事態は好転しないだろう。
「本体を捜す!」
『了解』
眷属達の流れに意識を絞る。無尽蔵に産み出されている眷属だが、産み出される範囲は決まっている。故に流れに逆らうように進めば────。
「み、つけた……!」
眷属に比べれば二周りほど大きい。その姿も頭部と思しき部分が三つに増えており、眼球がついた頭が二つと口がついた頭部と言った具合に分けられていた。
「こちら入江!本体を発見──!」
ぎょろり、と眼球が回る。黒々とした瞳孔に姿が写り込む。
気付かれたから、そのまま距離を取るように地面を蹴った。迎撃出来るようにと引いた腕が圧に負けて手から武器が抜ける。押し付けられた反動で跳ねる体すら許されず、あまりの衝撃に呼吸が詰まる。
笑っている、哂っている。縫い留められた首が嫌な音を鳴らして、反射的に浮かび上がった涙が視界をぼやかせる。
『綾華』
ああ、とんだ悪夢だ。
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