第九話 重ねても重ならず
二日目も、三日目も。プログラムのように透明化した相手はやってきた。生憎同一人物だったのかは分からない、学習するように別のルートを選択したかと思えば同じ反応でボロを出す、一体何がしたいんだろう。
「また一年後……」
いやいやとごねるようにソウさんの頭が禅譲に擦り寄せられる。体幹が強いのかぶれる気配のない禅譲はあやすように頭を撫でて、実は、と口火を切った。
「今回、入江さんが警護の任務についたことで私の方に監視任務が課せられました。表向きは今後の協力体制を見据えた事前研修として……一先ず、一年ほど」
「本当!?」
「しゅ!?」
「はい」
俺が警備についたから。……成程、今までシンさんだったから指摘出来なかった部分に大義名分が出来た、ということか。禅譲の発言は決定事項のようだからリアムさんも想定はしていただろう……アランさん達の方にまで情報がいっているかは分からない。あまりにも長期間離れているとリアムさんがしなびてしまうらしいが、流石に二日三日でしなびるわけでもないので。
「監視……っていうのは、具体的には?」
「人物としては入江さんを、場所としては……ええ、この扉の奥……つまり、この部屋の詳細を探るのが目的ですね」
「あぁ……」
禅譲がソウさんについて口を割ることはまずないだろうが、警備隊としては情報が欲しいという訳か。その任務に禅譲がついたのは幸か不幸か、実力という部分もあるのかもしれないが、恐らく選定にリアムさんも一枚噛んでいる。
「そっかぁ……一年間ずっと一緒……」
「しょ!」
弾んだ声音を肯定するようにすももくんが周囲をぱたぱたと走り回る。つられてレンも楽しくなったのか、満面の笑みで俺に沢山話しかけてくれていた。可愛い。
「一緒なの嬉しいね」
「しゅ!」
ソウさんとすももくんの微笑ましいやり取りを見ている禅譲の視線は柔らかい。俺達が自分の遣霊に向ける視線みたいな、どこまでも甘さを孕んだ瞳は禅譲がソウさんのことを心底大切に思っているのだと、理屈じゃなく本能で理解した。
『華蓮、かーれーん!』
『なぁに?そんな呼ばなくても聞こえてるよ』
俺が名前を呼んだら、花が綻ぶ様に笑みと声を返してくれた華蓮。笑う顔が好きだった、真剣そうな横顔に憧れた。俺の手を引くその温もりが愛しくて、そんな平穏が毎日続くと、俺は。
「――ん、だんな!」
ぺちぺちと頬を叩かれて我に返る。少し微睡んでしまったらしい……心配そうに顔を覗き込むレンに大丈夫だと告げてベッドに入る。自分では気付いていなかったけど、三日間の警備が終わって少し気が抜けたんだろう。自分の寝床からずりずりと這い出てきたレンが俺の頬を何度も揉む。
「ひぇん、くすぐったい」
「なん」
「むー」
「なーん」
小さな手で何度も何度も揉みこまれると、なんとなくマッサージのようにも思えて来て少しだけ眠気が強くなる。なけなしの抵抗で何か言おうとしたけれど、言葉になっているかは分からなかった。
「なななな。……なーな」
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