第七話 水面下の取引
「てことでさぁ、ちょっと探ってくんない?」
「私が……ですか」
「そ。場合によってはそっちに情報流す必要ありそうだし、なら最初っから依頼しようかなって」
にこやかに、されど拒否権はこちらには存在しない。無理難題とまではいかず、されど容易とまではいかない絶妙な依頼。私個人としても断る理由はないのだが、名を捨てたにしては……少し、違和感が残る。
「……入江さんの目的は、昇格なのでは?」
「んー……ちょっと違うんじゃない?本当に上行きたがってたらアランが見抜くと思うんだけど」
「それは……そうですが」
幾ら職員の中で上の立場に就こうとも、結局のところ上層部には繋がりがなければ意味をなさない。ましてや重戦闘区域で上の立場になることは困難を極めるので、本当に昇格したいなら軽・中戦闘区域で適当に取り入るべきではあるのだ。それを理解しているからこそ、アランさんが引き入れた意味が分からなくなる。
「確かに純粋な目的じゃなさそうなんだけどね。媚は売ってこないけど無害というにはちょっとね……覚悟の決まり方が尋常じゃないっていうか」
シンさんからそんな曖昧な言葉が出るのは珍しい。常ならば人間への不理解を全面に押し出して飄々と追及を躱し、必要最低限の情報しか出さない人である。新人であるが故に線は引いているが、既に気にはかけているという認識で良いのだろうか。
「上手くいけば伸ばせそうじゃない?」
「上手く……」
「うん。適当に違和感があったーとか言ってさ、延長できそうじゃない?」
「流石に目立つのでは」
「そう?なら……そうね、三日間の見張り業務、……何を見張ってたのか、気にならない?」
「…………」
今までは表向きいないとされるシンさんが警備していたので指摘出来なかった扉の先。入江さんは正式な職員であり、リアムさんの部下である。加えて今回の任務は入江さんの監視だった、報告する意味はある。
「入江くんも普通に強いからねぇ。流石にそっちだって無断で人残せないし研修なり協力なりの形をとろうとはするはずじゃん。んで、ここは曲がりなりにも重戦闘区域、受け入れるとしても一人、しかも生半可な実力者は受け入れられないって言ったらもうほぼ確定になると思うよ」
「そう……でしょうか。いえ、そうであることを祈るしかありませんね……」
ソウさんを危険に晒すことは避けたいが、傍にいたいのも事実。入江さんが本当に何らかの危険をもたらすのであれば……その監視をすることは寧ろ本来の目的に沿っている。
「分かりました。提案してみます。入江さんの身辺調査に関しては極秘で」
「お願いね」
まずは入江家自体を調べるべきだろう。やることは多いが、不思議と気分は浮上していた。




