第四話 刻めなかった証に想う
シンさんは告げるだけ告げてふらりとどこかへ行ってしまった。知らず知らず入れていた肩の力を抜いて一度深呼吸。……受動的に重戦闘区域のことを知ってきたが、ソウさんのような事例があるのなら少し意欲的に情報を集めても良いのかもしれない。リアムさんの主な任務が守護ならば、そこまで怪しまれることもないだろう。
「他者の介入なんて……欲しかった訳、ない」
もしかしたら、俺の方が華蓮にとっての”他者”であったのかもしれないけれど。半身を捥がれるような痛みを覚えたのは俺だけで、華蓮にとっては何の影響もなかった可能性だって、……いっそ、妖怪であれば共にあることを強制できるだけの呪い足り得たかもしれないのに。
「……」
じゅくじゅくと膿む傷口から目を逸らす。余計な思考は必要ない、後悔に乗る逡巡は要らない。トン、と靴底が鳴らす音で痛みに蓋をした。
「……禅譲警備員」
「シ、……入江、職員」
「逸れましたか?道案内が必要で?」
「…………いえ。人に、……大切な人に、会いに来ました」
「…………」
周囲に視線を巡らせる。秘匿要素なし、外部干渉なし、一通りの確認をしてから禅譲警備員を扉の奥へと誘った。
「っ大雅!」
「ソウさん……!」
「ふふ、おかえり」
「はい。ただいま」
小走りで傍に寄った禅譲警備員に喜色を浮かべ迎え入れたソウさん。猫が飼い主にマーキングをするようにすりすりと頭を胸元へこすりつけ、腰を下ろした禅譲警備員の膝上にいそいそと収まる。地面に散らばった髪を踏んでしまわぬようにまとめている禅譲警備員の手つきはどこまでも優しさに溢れていた。
「しゅ!しゅーしゅ!」
「すもも。ただいま」
「しゅ!」
「ななんなー!」
「え、……ええと?」
「あ、その子は俺の遣霊です。レンおいで」
「だんなー!」
元気いっぱい走ってきたレンを抱え上げる。俺が遣霊を連れていたのは予想外だったんだろう、禅譲の瞬きの回数が少しだけ多くなった。
「……小さくありません?」
「可愛いよねレンくん」
「しゅ!」
「うん、すももも可愛い」
「しゅう!」
頬を押さえて赤みを隠そうとする姿はいじらしい。レンも同じ気持ちなのか微笑ましいと言わんばかりの視線を向けていた。
「調子はどう?怪我はしてない?」
「はい。ソウさんもお変わりはありませんか?」
「んー……あ、布袋さんがね、天波羽織を作ったよ」
「天波羽織を?」
そういってソウさんは肩から掛けていたストールを引く。つけられている金具には瑞々しい生命の輝きを閉じ込めたような緑色の宝石が填められていた。
「廃れた技術と聞いていたんですが……布袋さん流石ですね……」
「大雅にも渡してほしいって言われてたから、はい」
「え、有難いですが……!良いんですか?」
「いっぱい出来たんだって」
帽子を落とし、慣れた手つきで縁の周りへと取り付けるソウさん。金具には揺蕩う水を封じ込めたような水色の宝石を嵌めて、満足そうに禅譲へと被せた。
「うん。格好いいよ」
「ソウさんが満足したなら何よりです」
まるで見せつけるように、控えめながら必ず目に入る位置につけられたその宝石に、少しだけ羨ましさを覚えてしまった。
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