第三話 熱は伏せ、平常のままで
「警備隊監査課所属。禅譲大雅です」
目深に被った帽子で目元は見えづらいが、間違いなく冷たい瞳をしているのは声音が物語っている。羨ましいほど綺麗に整えられた筋肉のついた肉体は、体質上筋肉がつきにくい自分とは比べ物にならない。
長身の体躯と、その体躯に見合う静けさを湛えた刀。出来れば敵には回したくない厳かさだ、立ち振る舞いに隙が無く、少しでも油断すれば首筋に冷たいものが当てられていてもおかしくはない。そう、思えてしまうほど彼の警備員は圧倒的な強者の風格があった。
「ヒュリスティック本部セントラル所属、重戦闘区域勤務職員。入江綾華です」
歓迎の気配は出さない。周囲には他の警備隊員もいる上に、新人である俺に興味が向けられているのを肌で感じる。俺は顔合わせの後ソウさんの警護のために別行動となるけれど、……絡まれる可能性は念頭に置いておくべきだろう。
ソウさんのいる部屋へと続く扉。その目の前で待機する。早々人は来ないと聞いているが、リアムさんも絶対はないと言っていた。警戒するに越したことはない。
「や、調子どう?」
「シンさん?どうしてここに」
「癖でね。元々俺がここ担当だったんだよ」
ざわざわと首に巻いているマフラーが蠢く。マフラーというには少し物質であることを疑いたくなるような黒さを誇っているが……何故だろう、不気味だとは思わなかった。
「レンくんは?ソウのところ?」
「はい。本当はうぱーくんと一緒にいる予定だったんですけど、レンが傍にいたいと言ってくれたので」
「愛されてるねぇ」
「はい」
否定する必要もないので堂々と頷く。ソウさんとも似たようなやりとりをしたな、と思考を回しながらシンさんの反応を伺う。あまりにもはっきりと答えたからだろうか、少しだけ目を見開いてから心底楽しそうに微笑んだ。
「良いね。変に謙遜されるよりずっといい」
シンさんの感情に呼応しているようにマフラーもまたゆらゆらと揺れる。……なんだか、スミレくんみたいなマフラーだな。感情を読むことは難しいけど、傍にいる人のお陰でなんとなく雰囲気が伝わってくる感じとか。
青藍さんがアランさんの、シンさんがリアムさんの傍にいることが多いのはなんとなく気付いていた。その理由を表立って聞いたことはない、ないけれど……二人が不仲であるだけが理由ではない気がした。
「シンさんは……禅譲さんとは、知り合いなんですか?」
「まぁね。一応……あんまり表立っては言わないし言う気もないけど、認めてはいるんだよ?ソウが何よりも……本人ずっと傍にいたいだろうに文句ひとつ言わず、彼の方もこっちに被害が及ばないように立ち回ってるし、……元々、本人達が認め合ってるなら俺達に口を出す権限なんてないんだけど」
「そういう……もんなんですか」
「そんなもんだよ。入江くんだってそういうの、分かるんじゃない?」
氷のように冷ややかな、けれどそこに込められている感情は決して鋭さを孕んではいない。ただ静かに、穏やかに、凍てついた奥底を覗き覗かれているような錯覚すら覚えるほど近い声を聴く。
「――――」
「ま、今の段階で俺達が動くと余計なモンまで呼んじゃうからね!策略とか謀略とか柄じゃないけど、ソウが悲しむのは……ね?」
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