第二十二話 伏せる情報と、伏せていた記憶と・後編
「今回土岐博士がお前の来訪を知ったのは、安芸職員に煽られたからだそうだ」
「安芸職員……確か、沖名さんの部下にあたる博士……」
「そうだな。博士同士知り合いなのは想定済みだったんだが、わざわざ煽る意味が分からん」
純粋に不仲故の煽りという可能性もあるが、俺が研究部門に訪れることが煽りになると判断した理由が分からない。土岐博士が来訪を知らないと知っていた?禅譲家と関係があるなら、俺がどういう立ち位置にいるのかは知って良そうなものなのに。
レンリさんはちらりと視線だけをこちらに向け、真意を見透かすように言葉を続ける。俺が気絶していた間にも情報を集めていただけあって色々と気になることも多いんだろうな。眠っている間に土岐博士とどんなやり取りをしたんだろうか。
「お前から見て……土岐職員ってのはどういう存在だった?何で土岐職員は禅譲を嫌ってる」
「単純に人間を嫌っていただけ……にも見えましたが、疎まれていた私にも、将来を期待されていた兄さんにも同じ対応はしていたので……嫌いだったのか、興味がないだけだったのかは定かではありませんね」
危害を加えられた覚えはない。嫌味を言われた記憶すらない。会話をするときは至って平凡に、応対するときも決して敵意はなかった。兄さん以外誰も信じられないあの家の中で、土岐博士だけは、確かに――――。
「……あ」
「どうした?」
ふと、脈絡もなく記憶が蘇ってきて声が漏れる。別にどうということはない、もし私が平凡な日常というものを知っていたら記憶にすら残らなかったであろうささやかな思い出。
「禅譲にいたときに……一度だけ、頭を撫でられたことがあったんです。兄さん以外に」
「……続けて?」
「それ自体は……珍しいこと、で良かったはずなんですけど、確かそのときに……」
何かを言われた記憶がある。けれど、その内容が思い出せない。罵倒じゃなく、賞賛でもなく、ただ、当時の俺はピンと来ないような。記憶を探るように目を細めるけれど、何を言われたのかさっぱり思い出せない。
「ええと……今思い出したということは、関係があるのは確かなんですけど……」
「……一応聞くけど、その発言をしたのは土岐職員……なんだよな?」
「はい」
「てことは、土岐職員のスタンスか信念あたりか……?」
「恐らくは……?」
意外だと思った覚えがある。だからきっと土岐博士は俺が思っていたよりも禅譲の人間らしくはなくて、それでも尚何故かあの家にいたんだろう。普段は本当に無関心を極めたような対応をされていたから、味方だという認識はなかったのだろうけれども。
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