第七話 羽深リトとその保護者・肆
「ヒュリスティックで行方不明になる……というのは、かなり特殊では?」
「……そう、ですね。実際、同様の事例は発生していません」
「…………何があったのか、伺っても?」
「……」
アランさんは困ったように眉を下げるだけで口を開かない。今までも頑なに初期の頃の騒動に関しては口を噤んでいるのだ、余程の事がない限り恐らく開示したくないんだろう。
「あの……ひびき様は、職員として……幸せになれたんでしょうか」
「……どう、でしょうね。いつも忙しそうでしたし……楽しそうなことも多かったですけど、本人がどう思っていたのかは分からないので」
「……!良かった、ちゃんと笑えてたんですね…………!」
「笑えないほど……京極家は、酷かったんですか?」
「少なくとも、私はひびき様の笑顔は見たことがありませんでした」
「……!」
羽深さんの言葉にアランさんは静かに息を吞む。アランさんの想定よりも恐らく京極さんの状況は悪かった。アランさんの記憶が穏やかであるほど、愛おしいと思えるくらい大切にしているほど、事実は重くのしかかる。
「だって――――ひびき、家とは疎遠なだけで問題ないって、何も気にしなくていいって……!」
「アランさん」
「っ…………すみません、取り乱しました」
一応止めたが、正解だったんだろうか。俺はその京極さんなる人物とは会ったことも見たこともないので何も確信はないのだが、少なくとも心配はかけたくなかったんだろうな、という推測だけは出来る。アランさんやリアムさんに心配されたくなくて、きっと、ただ笑ってほしくて優しい嘘をついた。
「……優しい、ひとだったんですね」
「そうですね。……優しくて、何もかもを抱え込むようなひとでした」
「アランさんみたいですね」
「……はい?」
思ってもみない言葉だったんだろう、アランさんは俺に視線を向ける。何もかもを抱え込んでしまうところも、不器用ながら優しくしようとするところも、随分と似ていると思ったからそう言ったのだが。俺の言葉にアランさんは瞬きを二つする。
「――――私は、ひびきほど優秀じゃありませんし、優しくもありませんよ」
「程度の差はあるのかもしれませんが、本質的には同じ、なのでは?」
「――…………」
一緒に過ごしていたのなら多少似るだろう、俺とアランさんだって同類なのだからきっとひびきさんとアランさんだって同類だ。じっとアランさんを見つめれば、ややあってからアランさんは泣き出しそうな表情で笑う。
「……じゃあ、それなら、二度を起こさないように話さないと、ですね」
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