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秩序の天秤  作者: 霧科かしわ
第十五章 扉は閉ざされた
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第五十八話 裏、もう一人の当事者は・後編

「志葉」

 静かな声が意識を引き戻す。振りかぶった刃を止めて、アランさんはじっと俺を見つめている。あれだけ煩くざわめいていた心臓は、気が付いた時には静まり返っていた。

「……アランさん」

「分かったでしょう?今のが、この場においての現実です」

この場において、あの()は脅威足り得ない。目の前にいても、本能が殺せと囁いても、俺はあの腕を攻撃対象と定めなかった。……つまり、今ここで暴れたとて意味はないということなんだろう。無意味であるならば考える必要はない、また振り回されるのはゴメンだった。

 龍は静かにこちらを見ている。言葉は通じているんだろう、ゾエによく似た気配……なのは間違いじゃなかったようで、内側で鼓動する気配もまた人ではないのだろうな、という確信を抱かせる。俺をじっと見つめて来る龍もまた俺を見定めているようで、アランさんがアルマさんと情報共有している間、動かずに俺を見ていた。

「初めまして龍の姿をした誰か。少し、お話よろしいですか?」

 アランさんの声に龍は視線を外す。音としては認識出来ないけれど、なんとなく喋っているのだろうな、という気配があった。アランさんは特段困惑することなく会話をしていたのでちゃんと聞き取ることが出来れば分かるんだろう。単純に波長が合っていないだけか。

「……分かりました。では、これからどうするおつもりで?」

「――……」

困惑……に近い沈黙だったな。視線がゆらりと彷徨って、知らず知らずのうちに俺は重戦闘区域への滞在を勧めていた。乱雑だがしっかりと寄せられた頬に表情が緩む。入江達がアカデミーに戻っていくのを見届けてから、アランさんは俺達の方に向き直った。

「すみません志葉さん、俺はこれからこの人を医務室に連れて行くので……あとは任せても?」

「大丈夫……だと思います」

「良かった。では、重戦闘区域に来ても良いですし、人との関わりを好まないのならばある程度範囲を決めてそこに滞在してくだされば。必要なら家も用意します」

「――」

「ええ。基本的には大丈夫ですよ」

アランさんの返答に納得したのか龍は一度ぐるりと周囲を回り、そうしてから俺の背を小突いて移動を促す。アランさんとはその場で別れ龍と共に戦闘区域内を歩き回れば、やがてレイスに近しい場所で移動をやめた。

「この辺り……か?」

 重戦闘区域内ではあるがかなり外側、加えるとレイスに近しいので人気はない。満足そうにその場で回転しているのでこの辺りに滞在する気らしい。

「家は必要か?」

「……」

必要そうだな。一応アランさんに連絡すれば待機を指示されたので手ごろな岩に座る。傍から見ても機嫌が良さそうだな、元々繭という不自由な環境にいたからかもしれない。

ここまで読んでくださりありがとうございます!

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