第五十七話 裏、もう一人の当事者は・中編
視界は一切信用しなくていい、ただ気配がある方向へ向き直り、攻撃を叩きこむ。輪郭を正しく捉えることは流石に難しいので、ただひたすらに距離感を間違えないように。
赤い瞳は自前だろうか、少なくとも意識はなさそうだ。恐らくは人間だと思うのだが、気配が酷く希薄で……違うな、中身が違う、というのが正解か。
「……厄介だな」
このまま押しきることは出来る。だが中身が違うということは本体がいる、人を変えて再度襲撃してくる可能性があるということだ。憑依型の怪異と対処法は同じでいいのか?その場合俺は特性を起動する必要があるんだが。……まぁ最悪トドメだけナイフを投げれば良いか。
何度目かの接触で、相手の姿勢が崩れる。押しきれるな、と判断したのも束の間、溢れ出すような異様な気配に思わず息を呑んだ。それと同時に地上から声が飛ぶ。
「っ全員伏せて!!!」
重圧と、過ぎる予感。僅かに立て直した視界の端で入江がよろめいたのが見えた。何の対処もなしに立っていたら確かに押し潰されかねないだろう、完全に脱力した状態の相手はそれでも俺と対峙している。
「……退く気はなさそうだな」
無言の肯定。気配を探れば相変わず視界に映る位置とは別の場所にあったが、さっきの重圧で中心部分は分かっている。無意味に長引かせる必要もないのでそのまま虚空を叩き無力化すれば、相手は糸が切れた人形のように地上へと落ちていく。
アルマさんが声を張り上げていたので落ちていった相手を気にする必要はないだろう。それよりも対処すべきものが近付いてきている。収まるどころかどんどん強くなる胸のざわめきに意識を奪われていく。
アレは、善くないものだ。今この時代にあってはならないものだ。触れてはいけない、戦ってはいけない、見られるなんて以ての他である。出鼻を挫くことはもう間に合わない、ならば出来るだけ刺激せず放置するのが良い……のだが。
「――――扉は、閉ざされた」
ただ一人の献身で救われる世界なら安泰か?ただ一人の犠牲の上で成り立つ世界は安寧か?ぐるぐると選択と結末が脳裏を駆け巡る。知りもしない過去を視て、分かりやしない未来を視ている。
「道は断たれた」
届かなかった手の先を視た。守れなかった大切なものを幻視した。後悔を幻覚だと言い切るには、どうにも痛みが邪魔をしてくる。
「お前達が、アイツを」
理性は放置しろと囁いている。本能は殺せと唆してくる。俺自身は、俺の感情としてはどうしたいんだろう。握りしめた剣を手放すつもりはないし、むざむざと逃がすつもりもない。どうやったら殺せるだろう、どうすれば、復讐することが出来るだろう。××を殺したアイツらを、俺は。
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