第五十六話 裏、もう一人の当事者は・前編
気配が変わり、空気が変わる。軽く方向を探ってから状況を把握するように強めに気配を探れば、遠くにゾエに近しい気配があった。一緒にいたテオは根黒さん方に行ってもらうように告げ、俺は気配の中心へと向かう。
『志葉さん。状況は』
「テオは根黒さんの方に向かってもらいました。今は中心に向かっています」
『分かりました。中心部にはアルマさん達もいるようです。場所が場所なので出来るだけ重戦闘区域側に移動を』
「分かりました」
アルマさん達はアカデミーに行っていた筈だが、何らかの事故で戻って来たんだろうか。俺も状況を把握したいので即時戦闘、の前にアルマさんへと近付いて状況を問う。
「アルマさん」
「ん、来たか」
アルマさんが戦っている相手は職員……ではなさそうだな。さっと視線を巡らせれば地上にも職員ではない人間がいる。……不慮の事故で位相がずれたとみて良いものか、その割には動揺が見られないのでずれたのではなくずらしたと見るべきか。
「目の前の相手は……少なくとも、現時点では敵対しているんですか」
「そうだな。あの龍はどうも現時点じゃあ敵対する気はないようだし……明確に敵対してるのはコイツだけだ」
「……成程」
ゾエに似た気配、ということは恐らくあの龍が敵対することはないとみて良いだろう。目の前にいる人間もあまり敵意が感じられる訳ではないが……いや、そもそも自我というもの自体が感じられない。そのまま地上にいる人達について問えば、現地の協力者という発言が飛んできた。
白衣の方は人間……なのか怪しいラインだな。もう一人の方は服装こそ違うが職員に近い気配なので多分戦闘が出来る。魔術の気配もあるので、あの白衣の方は魔術も出来る、とみてよさそうだ。取り敢えず敵対していないし最低限の自衛は出来そうなので問題なし、と断ずる。じゃあ問題は目の前にいる相手か。
「先に言っておくが、俺はこの相手と相性が悪いぞ」
「意外ですね」
アルマさんの戦闘スタイルを知らないが、天音の戦闘技術の高さも鑑みるとほぼ相性による得手不得手はないものだと思っていた。実際はアランさんだって時折相性が悪い相手はいるようなので……それでもこの短時間で判別出来るレベルなのか。
「物質としての定義がない」
「定義が……?」
端的に告げられた言葉を確かめるように気配を殊更に強く探る。視界に映る相手は正面にいるにも関わらず、気配自体は右手側にあった。……成程、本体はあっちか。
「いけるか?」
「いけます」
見えなくとも気配が取れるなら問題ない。幽撃を纏わせた双剣を気配に叩きつければ、気配も視界に映る人間も、勢いよく飛んで行った。
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