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秩序の天秤  作者: 霧科かしわ
第二章 この名を呼ぶのなら、貴方の剣となりましょう
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第二十八話 祈りと宣告

 交ぜるように、織り込むように。大切な思い出ごと閉じ込める。苦しかった記憶を覆うように、優しい記憶が解けぬように。

『東雲さん』

気付かれないのだと言っていた。幾重にも認識阻害を掛けて、情報を全て抹消した、と。事実医療部門の担当してくれた職員は俺のことを気付かなかった。もう無理だと、無駄だと諦めていたのに。

 俺に気付いた人がいた。俺の手を引いて、立ち続けろと叱咤してくれた人達が。決して見捨てない、決して無下にしない、そうやって重ねた言葉に救われて、砕けそうだったこころを抱えてここにいる。

「たーて?」

 無邪気に声を掛けて来るとあの頭を撫でる。月の光を織り込んだような銀糸は細くしなやかで、俺を映す夏空のような瞳は大きくて希望に満ちている。とあには何も知らないままでいてほしいけど、きっと最初からそれは叶わない。遣霊とはそういうもの、無垢でなくとも主人の傍で微笑んでくれる。

「……俺も、強くなりたいな」

アランさんの剣。そう呼ばれる皇さんが羨ましい。抑止として、象徴として、相互に影響を及ぼす関係性。たらればは努めて考えないようにしているけれど、時折どうしようもなく叫びたい瞬間はある。

「強くなれば……強かったら、あの子のこと、守れたのかな……?」

 苦しくて、それでも前に進むしかなかった子。弟のことを守りたいって、家族を失った直後だったのに平気なふりを演じていた子。

 ただ、少しでも背負うものを軽くしたかった。幼子が背負うには重すぎるから、ただ一人で抱え込んでしまうには、どうしても真実が残酷すぎたから。

「たぁてぇ……」

 慰めるように伸びる小さな手。ぽんぽんと髪を撫でられて、その柔らかさに胸の奥が暖かくなる。舌足らずでも名前を呼んでくれる存在、俺を”出雲”とも”沙織”とも言わない、俺を俺として認めてくれる存在。

「強くなりたいよ。誰にも守られないくらい、誰も届かないくらい」

あの傷付いた子を守りたかった。叶わなかった小さな願い、寧ろ傷付け苦しめて、……最期に見えたのは泣き出しそうな表情だったというのだから笑えない。せめて、大丈夫だよと笑えれば良かったのに。

「たーて、……てとたたーて?」

 服を握られ、上目遣いでじっと目を見つめられる。眉はやや下がり気味、口の形も不安そうに……けれど泣きそうな訳ではない、何かを伝えたいのに伝わらない、そんな風に見えた。

 伝わらないのは哀しいこと。そっと頬に触れれば静かに目を閉じて頬が擦り寄せられる。手の中に収まるほど小さくはないけれど、あの子よりも幼くて、重ならないまま記憶は被る。

『──、傍に──────』

 今度こそ、叶えられるだろうか。届かなかった願いを、聞き届けられなかった想いを。

「今度、こそ」

 そっと、祈りを捧げるように目を閉じた。



 譲り受けた布を織り込むようにして編み上げられた天波羽織。本人はそれがどれだけ特殊な技能なのかを理解していないだろう。きっと気付くのは製作者だけ、万物を拒絶することで不壊を保つ存在に純粋な不純物を混ぜ込んで尚不壊の性質を損なわない。奇跡と称される所業を理解されればまた囚われる。

 世界はいつだって不平等。寵愛は祝福ではなく、ときに呪いと同列に語られる。現にかの”悪魔”は愛し子と表裏一体の関係であり、祝福も呪いも受けた剣は寵愛故に自らを呪った鍵と紙一重。呪いのような寵愛を受けているこの子もまた、天秤が釣り合わなければ際限なく周囲に影響を及ぼすだろう。

「……たーて?」

 ただ一度きりの選択を後悔などしない。一度目のような過ちはもう二度と犯さないし、あのときこの子を嘲笑った全てをぼくらは赦さない。この子を守ろうとした、この子に手を伸ばしたあの子の選択が間違いじゃなかったって、あの子をただの愚者だと断じたお前達に、いつか。

「いちとーね?」

 最大級の絶望を、いつか突き衝けるさ。

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