第四十七話 扉の
皇の様子は明らかにおかしい。元々何が起こっても割と平然としている風に見えるけれど、今だけは明確に、錯乱とは言わないが平静でもないと言い切れた。
「……不味い、な」
「現状ですか、それとも皇の状態ですか」
「どっちもだ」
皇もやっぱり不味いのか。一見するとただ心ここにあらず、と言った風に見えるが。……戦闘中にそうなっている時点で異常だな。辛うじて戦闘意思をなくしているようには見えないので、万が一の事態が起こっても大丈夫だとは思いたい。
「入江、お前にはあそこ、何が見える」
「何、と言われましても……」
アルマさんが指した場所には何もない。ただ夜空が広がっているだけだ。ただわざわざ示したということは”何か”があるのだろうと判断して世界視を起動する。観測手は起動していなかった、けれど起動した瞬間に溢れ出る悍ましい何かに、思わず口元を押さえる。
「っ……!?」
「今把握したか」
「……何ですか、あれ。何もないのに――――何も見えないのに、情報だけが溢れてる」
「直視するなよ。目が潰れる」
そんな恐ろしいものを示さないでほしい。一旦情報が在る、という事だけを把握しつつ輪郭を見る。皇が見ているのはあの情報の塊と見て良さそうだな……ざっくり判別すると大きな腕、になるだろうか。腕と手しか形はない、巨人……が、空に穴を開けてそこから手だけを出している、ような。
「腕……?」
「そうだな。腕だよアレは」
「……大きすぎませんか。この世界にはいない?」
「いる。今は腕しか出せないだけだ」
「……?」
腕しか出せない、この世界の生き物。今は、ということは元々は身体もあった?それとも何らかの条件を満たすことで徐々に身体が出て来る……?
俺が思考を回している間にも腕は何かを探すようにゆらゆらと動いている。取り敢えず龍と接触させることだけは避けたくてアルマさんに頼んで近付いてもらえば、龍も大人しくこちらを向いた。
「少し移動しましょう。ここじゃあの腕にぶつかる」
「そうだな。多分あの状態で保てるのは精々が三分だ。それまで逃げ切れば良い」
龍も俺達に従うように腕から距離を取る。……なんだか本当に怪異とは思えないくらいちゃんと言葉が通じてるな。この龍もゾエくんに近い存在だったりするんだろうか。
「あとは皇が離れれば――――」
「あ、不味い」
「えっ」
皇の様子がおかしいことは知っていた。それでも問題ないだろうと、少なくとも判断を違えることはないだろうと慢心していた。
「扉は閉ざされた。道は断たれた。お前達が、アイツを、××を」
静かな怒りが滲む声。皇、と呼んだ声は届かなくて、煌めいた冷たい刃の輝きがどうにも目について逸らせない。
蠢く腕が、皇に接触するまで、あと。
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