第二十七話 目に見える証を刻む
「志葉さん、東雲さん」
ノックの音がして扉が開く。予想よりも早かったな、とぼんやり思ったのが伝わったのか、特に問い掛けた訳ではないがアランさんから「藍沢先生に追い出された」という主旨の発言が飛ぶ。……それはそれでいいんだろうか。
「暫定ですが彼……ルーサー魔術職員が責任者となるようでしたので、少々強引ですが引き抜き手続きを終わらせてきました。まぁ……正確にいうと東雲さんは本来中戦闘区域の職員として登録されていたので……引き抜きというよりは配置換えなんですけど」
流石にアランさんは東雲の事情を知っていたらしい。本名も知っていたようだし、当たり前といえばそうなのだが。
「あ、そうだ。アランさん、武器ありがとうございます」
「あぁ……使わずに仕留めたんですか、流石ですね」
俺から武器を受け取ったアランさんはそのまま出現させた時と同じように軽く振って消失させる。武器生成の特性……というのとはちょっと違うんだろう、どちらかといえば、あの瞬時に塵にすることこそが本質だ。
「……布」
「え」
「いえ……砕け散った残りなので、必要なら新しいものを用意しましょうか?」
まだ半分くらいは残っているとはいえ、確かに東雲が纏っているマントは先の方がほつれている。東雲はというと纏っていた事実にすら気付いていなかったのか、驚いたようにマントを抱えていた。
「あ……!すみません、なんかずっと着けてたみたいで……」
「まぁ着せたのは私ですし、証拠になるからとそのままにしていただけですので……別に問題ありませんよ。どうせそこまで砕けてしまっては新調するしかないので…………そうだ」
ふと、思いついたという風にアランさんが言葉を切る。
「お二人も一緒に行きませんか?」
「ええと……その、新調するところに、ですか?」
「はい。ウォルクさんの知り合いなので、もしかしたら会ったことあるかもしれませんけど」
……師匠の知り合い?
「あれっ志葉くんじゃん!!」
「布袋さん」
「ああ、矢張り知り合いでしたか」
「いや知り合いというにはちょっと縁が薄すぎる。ウォルクが一回連れてきただけ」
俺が使ってる武器を作ったのは布袋さんだ。師匠の知り合い……もとい、幼馴染といっていたが……まさかヒュリスティックと縁があったとは。
「そっちの子は?初めまして?」
「東雲泰誠です。初めまして……」
「ご丁寧にどうもどうも。布袋太一です」
にこっと人懐っこい笑みを浮かべる布袋さん。師匠曰く万物を等しくうっすら嫌ってるらしいけど……仕事にかける熱量が上回って人付き合いは寧ろ良い、仕事と趣味には誠実な人、そう師匠は評していた。
「因みにその子達は?」
「俺の遣霊のスミレと、イデアとイデアの一部です」
「私の遣霊のとあです」
「待って、なんか今変な単語聞こえた」
流石に布袋さんもイデアのことは見逃せないか。当人達は気にしていないが、そもそもの存在が謎過ぎるのがイデアである。
「今日はどうしたの?」
「布の新調と、東雲さんと志葉さんにそれぞれ服を身繕おうと思いまして」
「あー布ね?丁度いいのがあるよ、じゃーん!天波羽織ー!」
意気揚々と取り出したのは……何の変哲もない布。やや透けており、今までアランさんが纏っていたマントとは似ても似つかない。
「あまの……はばおり?」
「うん。知り合いに頼まれて作ったんだけど、思ったより量が出来たの」
「何でしたっけそれ。禁術?」
「一応通常禁術ではあるね。作り手がいないから禁止されたらしいけど」
布を手のひらサイズに切り取って布袋さんはアランさんへと渡す。受け取ったアランさんが首元へ手を寄せれば、ふわりと今までのマントと遜色ないものが現れた。
「えっ……?」
「おーやっぱ上手ね」
「でも流石に常時展開させるのは無理です」
「あぁそれはね、ちゃんと用意してありますよ……はい、これで基本はこの形で固定された」
広がった布に金具を取り付けた布袋さん。興味があるのかみうが小さな手で金具をいじくっている。
「どういう……?」
「この天波羽織はね、簡単にいうと着用者の思考に応じて姿を変える万能布なんだよ。斬撃打撃銃撃……基本的には破壊不能!」
「すごい……!」
「問題は結構ちゃんとイメージ出来ないと上手く使えないって部分なんだけど……二人にもあげるよ」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
受け取った布を興味深そうに眺めるスミレ。ちょん、と触れたと思うと俺の方を見て……何故か布を伸ばしてネクタイ状に変化させた。おい嘘だろ。驚く俺を無視して左腕にネクタイと化した天波羽織を巻き付けるスミレ。……どういう意図かは知らないが、スミレの瞳と同じ色合いのネクタイは、何故だかちょっと心の奥がくすぐったかった。
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