第三十六話 情報共有・前編
「おはようございます藍沢先生。少々お時間よろしいでしょうか」
「ああどうぞ」
夜中会った人とは思えないくらい柔らかな物腰と表情でやってきた花菱先生。この人本当に同一人物なんだろうか、気配が違いすぎて少し困惑してる。
「このカーテンを閉めておけば声は漏れませんので」
「ありがとうございます」
ぴっちりとカーテンを閉め、音声を遮断する。俺とアルマさんがいるのを確認して、そうして漸く花菱先生はへらりと笑った。
「いやーひやひやしちゃうね。アナタシアくんは?」
「監視されているだろうから、と」
「成程ね。まぁ流石に目立つか」
「そら、ご所望の資料」
「お、ありがとー」
アルマさんから受け取った資料をパラパラとめくる花菱先生。結局アルマさんの口から花菱先生との詳しい関係は聞けていない。ただ言葉にはしてないけれどかなり信頼しているのだろうな、というやり取りを目の前で見せられている。
「んー……」
「どうだ?」
「何か……曖昧なんだよねぇ。これお相手側もあんまり中身を把握してなさそう?」
「あの……中身って?」
「ああそっか、入江くんには説明してなかったね」
そういって花菱先生が説明してくれたのは、地下にあったという繭とその繭に着いていた指輪のような呪具の話。どうやら俺とアナタシアさんが潜入した場所とは別の場所から侵入し、地下の研究室へと辿り着いたらしい。
「繭……」
「うん。中に人……がいるのは確実なんだよね。ただ、人数が良く分からない」
「人数が?」
「感覚としては一人出された……んだったか?」
「だと思ってたんだけど……どうもそう簡単な話でもなかったみたいなんだよね。実際資料を読んだ感じからしても抽出は上手くいってなさそう」
「???」
中身、人数、抽出。言っている単語の一つ一つは分かるのにそれが言葉として結び付かない。俺の反応が怪しいことに気付いたのか、花菱先生はハッとした様子で俺の方を見る。
「あ、ごめん。話、難しかった?」
「ええと……すみません、はい」
「実際ややこしいのは事実だな。俺達も正しくは把握していないから会話に不明点が多い」
アルマさん達も良く分かっていないのか……。地下には繭があって、その中に人が入っている……ところまでは理解した。ただ、その中身が一人なのか複数人なのか分からない、ということで合ってるんだろうか。俺のたどたどしい確認を聞いた花菱先生は再度頷きを返す。
「そうだね。大体合ってる。もうちょっと詳しい話をすると中にいるのは一人から二人、確信を持てないのは一人分の気配は確実にあるんだけどもう一人の気配は酷く曖昧……言っちゃえば残滓みたいなものだったから、なんだよね。だから俺は一人外に出された、と判断したんだけど……研究資料を見た感じ、その抽出は失敗してる」
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