第二十六話 過去を浚う
「……」
「……」
どうにもまだ人といるのが負担になりそうだからと自室に連れてきたが。特に話すこともなくて沈黙が下りる。スミレ逹は互いにちょっかいをかけながら伝わっているのか分からない会話をしている……今はイデアが気になるのか、頻りにとあがイデアを捏ねていた。
「とえたちー?」
「みゅ……みゅん」
「(こねこね)」
小さな六つの手がイデアをせっせと捏ねる。たまに伸び、時折膨張してはまた流体に戻る謎の生命体……明らかに質量が増減している気がするんだが、気にしたら負けなんだろうか。
「あの……」
ぼーっとスミレ達を眺めていたら隣が動く気配がして、そのまま控えめに声をかけられる。遠慮がちだが怯えていたり何かを呑み込む様子はない。す、と控えめに腹部を示される。
「怪我、大丈夫ですか……?」
「ん……藍沢先生がいうには、二、三日大人しくしておけば治るって。そんな酷くはない」
「良かった……」
心底安堵した、という風な表情に思わず面食らう。この怪我は俺の対応ミスで出来た傷、確かに目の前で怪我したが東雲を庇ったわけでも、ましてや東雲がつけたわけでもない。
もし、東雲が目の前で発生した負傷全てに等しく心を砕いているのだとしたら、職員という選択肢はかなり苦しいんじゃないだろうか。重戦闘区域はともかく、軽・中戦闘区域はチームでの任務が基本だった筈だ。
「お前も……重戦闘区域以外だと、潰れる?」
「え……?」
意図を取り損ねた東雲が首を傾げる。少し言葉を省略しすぎたか、そう思えどわざわざなかった可能性について聞く必要もないと思い直し適当に言葉を濁した。折角落ち着いているのにわざわざ動揺させる意味もない。
「とえたー!?」
「みゅ……!?」
「(じー)」
少し目を離していたら何やら騒がしさが増す。何事かとスミレ達の方…………とあが何か黒い物体を持っている。何故かもぞもぞと動いているが、イデアと思しき物体はまだ捏ねられていた位置のまま……。
「……分裂?」
「とえた」
「とれ……え、取れた!?」
じゃあこれイデアの一部なのか。とてとてと近付いてきたとあが俺の掌にイデアの一部を置く。……もごもごと動いてるのが掌から伝わってくるな。指先でちょいちょいとつつけばひとりでに伸び縮みする辺りもイデアの一部だと雄弁に物語っているだろう……本体の方もいつの間にか寄ってきてふんふんと鼻先を寄せてきている。お前の一部だろどうにかしろ。
「スミレ。……これくっつけたら元に戻るのか?」
「?」
「みゅ……」
一応イデアを生成したのはスミレなのだから、分裂した時の対処法も分かるのかと思い問い掛けたが、きょとんとした表情で首を傾げられた。試しにイデアに分裂した一部を押し付けてみたが、特に吸収されずにころころ転がり始める。
「えぇ……?」
「……まぁ良いか」
東雲には信じられないものを見る目で見られたが、イデアの奇行にいちいち驚いていたら思考が保たない。イデアの一部はやがてスミレにぶつかり、何故かまた念入りに捏ねられていた。
「そういえば。……東雲は何で出雲って名乗ってたんだ?」
「……ええと、そもそも私は現場職員……中戦闘区域に配属予定の職員だったんです」
「?」
考えてもみなかった切り出しに思わず首が傾いた。ただ、説明するからには関係があるのだろうと思い一旦話を促す。
「アカデミーで高い成績を収めた生徒は先行して職員になれるんです。色々あって……私はその制度を使って一足先にセントラルへとやってきました。それで中戦闘区域で働いていたんですが……」
そこで一度言葉を区切った東雲は、何かを耐えるように口をきつく結ぶ。視線が伏せられ、とあが両手に両手を重ねる。
「……定期検査で。魔術への特殊な適性があると言われ、そのまま連れていかれました。それで……研究部門は信用ならない、医療部門から情報が漏れればお前は実験体だといわれ……気がつけば名前を変えられ、魔術部門から出ることも出来ず」
「……」
魔術への特殊な適性。雪代さん達に聞けば分かるだろうか。わざわざ名前を変えていた意味は分かったが、アランさんとリアムさんの会話も踏まえるに……本当に実験体のように扱っていたのは、果たしてどちらだったのか。
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