第二十四話 重ねぬように先を編む
「現段階での東雲さんは、”遣霊出現による緊急保護”が適用されています。不意の遣霊出現に関しては、往々にして問題が起こりがちですからね」
「当分はアランさんの庇護下……ってことですか」
「はい。少なくとも東雲さんの意向が決まるまでは」
東雲の意向。つまりこのまま魔術部門に戻るか、それ以外か。魔術部門に戻っても残っているのが自称下っ端の先輩方だけなので今までのようなことになることはないと思われるが、だからといって東雲が戻ろうとするかは別の話である。
東雲の傍にいる遣霊はスミレのことが気になるのか、何度かちょっかいをかけてはぺい、と雑な反応を返されている。珍しいことにイデアは俺の腹辺りから微動だにしないので……多分存在に気付かれてない。みうが時折不思議そうにイデアを見ているのは、普段謎の挙動を繰り返す生き物が大人しくしているからなんだろう。
「遣霊出現したら、基本的には重戦闘区域か……支部?に異動でしたっけ」
「そうですね。遣霊を連れた、あるいは出現させた職員の殆どは支部で働いています。やはり中戦闘区域以下では問題が多発するので……」
宇月の問いに頷きながら答えるアランさん。そういえばやけに静かだなと思い宇月の膝上を見れば、いつの間にかなつは寝ていた。
「み……み?」
「そうですね。東雲さん」
「は、はい」
「貴方の傍にいる遣霊、彼に名前をつけてくださいませんか?」
みうから促されてアランさんが言語化すれば、東雲はきょとんとした表情で名前、と言葉を繰り返す。俺もあんな感じだったのかな……と思いつつ様子を伺う。東雲と目が合った遣霊は楽しそうに舌足らずのた行で会話を試みていた。ちょっかいが止んだにも関わらずスミレは微睡みもせず俺の膝上でゆらゆらと僅かに揺れている。
「……とあ」
「とあ?」
「とあさん……ですか?」
「はい」
とあ、と改めて呼ばれれば、それが自分の名前だと理解して元気よく返事をする。……やっぱりしゃべれる単語からとったんだろうか、本人逹も名乗れる方が色々都合が良いんだろう……俺とスミレにはあんまり関係無い話だが。
「あの……私は、中戦闘区域程度の実力しか……」
「……セントラルではそうかもしれませんが、支部では求められる技量が違います。それに…………とあさんがいて、それでも実力が低い、というのは難しいことかと」
遣霊がいる時点で一定の実力があるのは確かである。つまり宇月もそれなりの実力があるということだが、ちらりと視線を向けたら何故か目を逸らされてしまった。
「……皇さん、は……」
「ん」
「彼は重戦闘区域の職員です。今年度は二人新人が入ったので、一人くらい増えても目立ちませんよね」
「みゅ!」
みうが元気よく返事をして、きゅ、と東雲の手を握る。……アランさんが東雲を気に掛けているのは知っていたが、どうやらみうも同じだけの熱量で東雲のことを気にしているらしい。……遣霊だから、主人と多少思考が被るんだろうか。
「みゅー」
「とあおー!」
「仲良し……みたい?」
宇月にそう言われてみうととあは揃ってにこにこと笑い合う。何か惹かれ合う部分があるんだろうか、もしかしたら思考レベルが近いのかもしれない。
東雲は迷っているのか、ふらふらと視線を彷徨わせては時折口を小さく開く。しかしその言葉が音になることはなく、無理に発言を促せない俺達も黙っていることしか出来ない。何度目かのやり取りの後、くるりとアランさんの方を向いたみうが、甘えるように小首を傾げて上目遣いでアランさんに話しかける。なんとなく声のトーンがやや幼い。
「みーみゅ、み」
「ふむ。……東雲さんのこと、とても気に入ったんですね」
「みゅ!」
「東雲さん、もし今後のことで迷っているのなら…………私としては、重戦闘区域の職員として、ひいては部下として、共に働きたいな、と思っています」
「あ……」
「勿論、無理にとは言いません。まだ時間があるので返事を急かすこともしません。――――ただ、貴方のことを大切に思い、共にありたいと願っていることだけは確かです」
柔らかく、染み入るような声に促されるように東雲の瞳に光が宿る。焚火に木をくべるように、夜明けの日差しが差し込むように、木漏れ日を集めて暖めたような黄色が、ふわりと輝きを増した。
「お、れも……!一緒にいたいです。今度こそ……!」
妙な違和感。……どちらに対してだろう、一瞬だけ気配が揺れたアランさんへか、それとも願いというよりも祈りに近い声音だった東雲に対してか。
「……?」
ぺし、とスミレが俺のことを叩く。野暮だと言いたいんだろうか、それとも。
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