第八話 薄氷を踏む・中編
「根黒を狙ってた研究機関の詳細?」
「ああ。根黒本人が、詳しいことはお前に聞け、と」
私がそう言えばレンリはあー……という声を出しながら天を仰ぐ。少しの間沈黙していたが、やがて意を決したかのように視線を戻し私に椅子を勧めて来た。
「一応聞きたいんすけど、これ根黒にも情報行きます?」
「いや、お前が止めるなら私からは何も」
「そうっすか」
根黒本人に情報が行くのは望んでいないのか。それで、とレンリは私に何を聞きたいのかと問い掛ける。
「根黒の情報が漏れるとしたらどこからなのか、そもそもその研究機関はどこの所属だったのか」
「あの一応言っときますけど根黒の情報……特に特性関係は全部抹消したはずなんすよ。仮に漏れてたとしたらもうそれヒュリスティックからとしか思えない」
「じゃあ原因はここか」
「…………取り敢えず何でこの情報が欲しいのか理由を聞いていいっすか」
レンリに促されるまま禅譲家からの手紙と現在根黒に発生している異常を話す。どうやら根黒から何も聞いていなかったらしく、話をする内に段々と表情が険しくなっていった。
「あんのバカ……!通りで最近顔出さない訳だよ」
「知らなかったのか」
「本人が開示しない限りこっちに情報は来ませんよ」
その言葉に瞬きを二つ。……正直、レンリもアランのように独自の情報網があるものだと。私の心を読んだかのようにレンリは顔を顰める。
「テオはともかく、根黒は一応同期っすよ?そんな干渉はしません。本人が助けを求めて来たときとテオに迷惑が掛かるときは別ですけど」
「そうか」
しっかり線引きはしているということか。……その割にはいざ干渉すると過剰とも思えるくらい報復すると聞いているんだが。反動だろうか。
「で、根黒の情報なんすけど」
「ああ」
「さっきも言った通り研究機関にあった書類やデータは全部抹消しました。俺とロウシの二人掛かりだったんで確実性はとれるかと。ただ、そもそも……あの騒動の切っ掛けになったクソ教……件の教授は行方不明になったんですよね」
「行方不明?」
「はい。表向きは懲戒処分でしたがね、その後の消息も追えないし……なにより、偽造されてたんですよ、経歴」
「……不穏だな」
「ええ。あの時期ですら本当のことを書いたら採用されないレベルの経歴と見て良いかと」
想定よりも不味い情報が出た。あの無法地帯だった時期ですら採用を見送る組織、というのは数が限られている。
「研究機関自体はもうないですけど……新規で生まれた小さな研究機関でしたね。実績携えてどこかに売り込むつもりだったみたいです」
「成程な……」
「相手が強欲だったお陰で情報拡散は食い止められてたはずなんだけど……まぁ、怪しいのは件の教授でしょうね」
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