第二十三話 零さぬように、手放さぬように
「馬鹿たれ」
「あたっ」
頭に軽めのチョップをされたアランさんがスミレと同じ口の形してる。スミレは結局検査を受けたが故の不満表示だが。アランさんはチョップに対する不満だろうか。
「せめて武器を使え武器を。何でわざわざ素手で戦った」
「いやだって……即席で作るとすぐ壊してしまうので、片付けが面倒なんですよ」
「ほぉ……?俺に怒られることよりも片付けの方が嫌だ、と?」
「いやそういう訳じゃないです」
「そういう意味だろうがよ」
手袋を脱げば黒くひび割れた掌が露わになる。倒した怪異と同じ、黒い煤のような手。特性の暴走……あるいは代償、だろうか。掌に藍沢先生が謎の液体を注げば、一滴残らず吸われていき、それに伴ってひび割れが治っていく。
「それで?出雲はどうしてる」
「錯乱状態は一旦脱したかと。意識を落としたので一度志葉さんの方を確認しに来ま……ええと、怪我の治療と志葉さんの様子を確認しに来ました」
「そうか。これからの予定は?」
「東雲さんが目覚めないなら一度魔術部門の方に顔を出そうかと。上を挿げ替えるために代表を立てないといけないので」
「……お前、そういうの得意だったか?」
「苦手でもやるしかないでしょう。最悪別部門とするか派閥として隔離するか……」
「あー……そっちは俺がする。お前は出雲の方に集中しろ」
「ゆっきー達が今対応中なんですけど」
「じゃあ寧ろ好都合だろ」
会話中にも液体は注がれ続け、やがて何の傷もない掌に戻る。藍沢先生の手を制し何度か動作を確認するように手を動かしたアランさんは、そのまま何事もなかったかのように手袋をはめ直した。
「志葉さんの傷は?」
「予想よりかは悪くない。二、三日大人しくしとけば完治するだろ」
「それは良かった」
特段痛んだりしないから気にしていなかったが、事実として軽傷だったことにほっと息を吐く。流石に痛みに気付けないといざというときに致命的な失態を犯しかねない。
「じゃあ俺は魔術部門の方に行く。皇も連れてけ」
「はい。志葉さん、スミレさん、移動しましょうか」
「はい」
「(こくり)」
アランさんに促されて出雲が寝ているという部屋へ向かう。スミレはというと何故かしきりに傷口にイデアを押し込む……?貼り付けようと?している。流石にイデアは包帯にならないぞ。
「みゅー」
「たっとー」
「?」
聞き馴染みのない声にスミレが首を傾ける。アランさんが静かに扉を開ければ、みうと出雲の遣霊が揃って出雲のことを慰めている光景に出くわした。何故か知らないが出雲はアランさんの帽子を抱えてるし、傍にいる宇月は困惑するようになつを押さえている。
「??」
「ああ、おはようございます」
「みゅーみ」
「アランさん……?」
みうに招かれるように傍にあった椅子へと揃って座る。……成程、確かに出雲の瞳にはやや混乱の色こそ見えるが怯えている様子はない。本人からすれば多分魔術部門にいた記憶で最後のような気はするし……気がついたら遣霊に囲まれていたっていうのも困惑する要因だろう。
「おはようございます。……東雲さん」
「あ……」
「とととーたたーたん!」
「みぃ?」
「おなぁす!」
今まで飲み込んでいた言葉が、一つ剥がれた。東雲……聞き覚えのない名前ではあるんだが。どうやら出雲にとってはその名前の方が良いらしい。
「名乗って……良いん、ですか?」
「はい。貴方の本当の名前ですから。東雲泰誠さん、貴方はもう自由ですよ」
「……!」
本当の名前。……名乗れない事情があったとみるべきだろう。あとで詳細を聞かないといけないが、少なくとも出雲……ではなく東雲をアランさんは全力で守る気だ。
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