第二十二話 手が届かないからこそ××で
何でもないふりで歩いていた足が止まる。一度しっかり深呼吸をしてからまた歩みは再開された。その仕草を認めてから声を掛ける。
「何て言ったの」
「別に」
「アラン」
「ただの願いだよ。俺が聞き入れるべき、本来は願う必要すらないくらい些細な」
「……」
「本当だって。……『自由に』と。それ以上は聞き取れなかった」
沈黙に負けて返された言葉は確かにささやかすぎる願い。本来なら願う必要もない、多分コイツなら何度も聞いたであろう言葉。願われ続けて、叶え続けて、いつしか元の想いすら分からなくなった。
ただ自由にと願われただけなら、多分アランは動揺しない。いくら目を掛けてるからと言ってもそれだけだ。それぐらいで揺らぐようならとっくのとうに潰れている。そうじゃないからこそ明確に、二回も平静を装えなくなるなんて有り得ない。
「……じゃあ、何を重ねたの」
「俺が。…………。――――みうと出会ったときのこと」
予想外の言葉が返ってきて思わず口を閉ざす。交渉に使えど本人は決して語ろうとしない過去、当事者はただ一人で、俺達ですら全てが終わった後しか知らない、何もかもが秘匿されたアランにとっての分岐点。
「ところで青藍、魔術部門の方をゆっきー達に任せると言っていたが、流石にルコンが保護者っていうのはやっぱり無理がある」
「大丈夫だよちょっと二、三人見えないものが見えるようになっちゃうだけだから」
「早急に行け。被害者増やしてどうするんだ」
しっし、と手をおざなりに振ったアランはそれ以上追及するなという意味も込めてるんだろう。出雲に向けている関心の一部でも開示しただけマシというべきか。少なくとも今の状況で出雲を元の場所に返す気はさらさらなさそうだし、出雲の方も大分アランに心を許してそうだし、どこかでもう一度聞くタイミングはある、と思いたい。
「じゃあ俺魔術部門の方行くけど、お前どっかで合流すんの?」
「志葉の方を確認して、それでも目覚めないようなら一度そっちに顔を出す」
「ふうん……」
頑なに出雲の名前を呼ぼうとしないアラン。どちらで呼ぶべきかを迷ってるのか、それとも余計な混乱を防ぐためか。本人何故か出雲と呼びたくないみたいだったし。
「じゃあ俺ワカバ達の方行くけど……本当に大丈夫?」
「子供じゃないんだぞ」
「子供だよ。妖怪からすれば」
「……」
ため息は一つだけで話を切り上げる。下手に反発すると余計に子供っぽくなるっていうのは学んだらしい。リアムは未だに子供扱いに拗ねてシンにからかわれてたりするのにね。
「頼むからこれ以上被害を出すなよ」
「それはコンちゃんの気分次第じゃない?」
「だからさっさと行け」
いい加減行かないと怒られそうだから大人しく踵を返す。適当なドアからドアへ、特性を使って移動する。結界術の極致、割と何でもありな特性の中でも大分無法寄りな俺の特性。実際は結構面倒な制約とか継続のための膨大なリソースとか、使いづらさも随一な訳だけど。
「アーセイランキター」
「来たよー」
「あれ、青藍さんじゃーん。ワカバ連れてく?」
「いや、こっちの様子確認…………しに来たんだけど?」
何故か険悪とか困惑とか通り越して崇拝されてるゆっきー……あれ明らかに崇められてるよね???何で?
「何事?」
「ユッキーノツヨサニオノノイタゾ」
「強さに……あぁ、魔術師って実力主義なんだっけ」
「才能第一の世界に努力だけで上位に食い込みかねない存在が現れたら、そりゃあ自称ミソッカスの彼らにとって希望だよね?」
コンちゃんの言葉通り、ゆっきーは魔力量絶無だし本来なら魔術師とは真逆のステータスしてるような気はするけど……あれはあれで一種別ベクトルで高い適性ありそうだし、参考にはならないと思うんだよね。
「実際ラリマーとワカバからみてどうなの?ゆっきーの魔術って参考になる訳?」
「ナラナイヨ」
「一部なら……全部は無理、再現性もない」
散々な言われようだな。そう思ってたらひょい、と眼鏡かけた職員が近くに寄ってくる。
「良いじゃないですか再現性皆無でも。憧れってのは届かないからこそ意味があるでしょ?」
「そうなの?」
「俺分かんね」
「俺も分かんない」
「セツメイシロー」
「あはは、簡単ですよ。憧れに近付こうとして紆余曲折する、色々考えて沢山の経験、体験をする。その積み重ねが――――何よりも自分の武器になる」
視線の先を追う。……集まってる職員達の中心近くにいる、面倒見のいい職員を真っ直ぐに、穏やかな瞳で。……コイツも憧れを追ってるのかな。
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