第四十五話 誰もいない支部・玖
薄皮一枚剥いで抜け出す。ぼとぼとと落ちる肉の塊が不快とか思う間もなく、周囲の状況に目を瞬かせた。
「砂……?」
「ッセイラン!」
切羽詰まった声に取り敢えずワカバを確保。視線の先を確認すれば、案の定夏音が杖を深々と突き立ててうずくまっていた。怪我はない、存在が若干揺らいでるけどあれは特性の影響か。
「錯乱?」
「オレガ……オレノセイデ……」
「ワカバのせいじゃないよ。最初にしくじったのは俺」
実際俺が油断しなきゃもう少しどうにかなった気はするんだよね。油断というか、こんな時間も労力もかかる方法で主導権取り返す羽目になるとは思わなかったというか。わざわざ内部まで侵入するのは普通に骨が折れたよ本当。
怪異の内部に入って核は壊した。それは良い。問題は再接続に思ったより時間がかかってるっていう点と何故か夏音が錯乱状態にあるっていうところ。
「どうにかして落ち着かせたいところなんだけど……」
「ユキヨベナイ?」
「流石に無理」
夏音の遣霊であるゆきさえいれば一発で落ち着いたんだろうけど、この状況下での移動は難しい。というか夏音もアランがベースなだけあって特性同士でやりあうとちょっと分が悪いんだよね。
砂嵐が俺達を傷付ける気配はない。少しでも下がれば巻き込まれるかもしれないけど、少なくともワカバを守ろうとしたんだろうな、という推測は出来る。だって明らかに中心が夏音じゃないからね。夏音は砂嵐の真っ只中にいるんだけど……どうやって止めよう。
「夏音!落ち着け!」
「っ……」
「ハンノウナイカ……」
必死すぎて聞こえてないっぽいな。無理矢理この嵐を突破する?ワカバが動いてないってことは相当拙いものだとは思うけど、このまま自傷に近い暴走を眺めてるわけにもいかない。ワカバには念のため周囲の警戒をお願いして砂嵐の前に立つ。
「無理矢理止めるか……」
意を決して砂嵐に突っ込む。怪異の体液を頭から被っていたせいで砂が纏わりついて邪魔。ざらついた感触を出来るだけ気にしないようにしつつ、夏音の目の前まで歩いていった。
「夏音。もう大丈夫」
「……」
「もうお前やワカバを害する相手はいないよ。大丈夫」
言い聞かせるように言葉を重ねる。意識が朦朧としてるのか小さく言葉を発するばかりで止める気配がないんだけど……。思ってるよりヤバいか?
夏音自身も輪郭が揺らいで今にも崩れ落ちそう。どうも杖を存在の要としているようだから触れないように気を付けつつしゃがみ込んだ。
「夏音」
「…………、アオイ?」
「?」
誰だアオイ。夏音が知ってるってことは研究部門に残ってるのか……?ほっとしたように表情を緩め倒れ込んで来た夏音を受け止めれば、砂嵐はゆっくりと収まっていった。
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