第四十四話 誰もいない支部・捌
「……ヒトガタノカイイハ、イナイハズ」
ワカバさんの静かな言葉に思考が止まる。人型の怪異が、いない?少ないとかではなく明確にいないというのなら、ぼくが見たものは?
「え、でも────」
「カリニイテモマガイモノ……ニテモニツカナイ。スクナクトモ、ミマチガエハシナイ」
「……ぼくでも?」
「カノンデモ」
……どういうことだろう。ぼくが見たものが人型の怪異ではないなら、あれは本当の職員……あるいは、何らかの幻覚ということになる。……有り得ない訳じゃない、見たのはぼくだけだし、ちゃんと喋ったわけでもないし。寧ろ可能性は頗る高いだろう。それでも……あんなはっきりとした幻覚があるとはおもえないのだけれど。
「イッパイイルカラ、ヒトリクライミエテモオカシクハナイケド……」
「いっぱいいる?見える?」
「ウン」
今は何の気配も感じない。そもそも春音や秋音ならともかく、ぼくと冬音はそこまで特殊なものは見えない。せいぜいが気配を感じる程度、それもぼくは一番感度としては低い。
普通にはみえないもの、色んな人がお化けっていうもの。寄り添うことも共感することもないぼくが見えないのは道理だ。こればっかりは生まれつきだからもうどうしようもない。それはオリジナルにも言えることの筈だけど。……ああいや、オリジナルは当事者だから見えるも何も、か。
「ヨバレタジジツモフマエルト……イソイダホウガイイヨネ」
「そうですね。長引くのはどちらにしろ――――」
気配を感じてぼく達は振り返る。少し離れた、距離を詰めるには少し遠いところに白い、床から生えて来たかのようなのっぺりとした細い何かがあった。何も分からないけど本能的に近付いてはいけないと思って後退りする。
「ワカバ、さん」
「……ニゲテ。デキルダケトオクニ」
「でも、この空間内じゃ」
『――――濶ッ縺?、ゥ豌励〒縺吶?』
「っ」
「ニゲロ!」
瞬きするその一瞬で距離は詰められていた。ワカバさんが勢いよくぼくを引き倒し、遠ざけるように強く押して。白い何かが大きな口が開けるのが見えた。見えていた。
「っやだ、やだ……!」
杖を強く握りしめる。地面に強く突き刺して、周囲全てを呑み込むような砂嵐をイメージする。制御なんて言ってられない、このまま何も出来ずに足手纏いになるのは御免だった。
「ワカバさんに触れるなっ!!!!」
鈴が強く鳴る。遮るように、守るように、意識も千々になりそうなのを必死に留めて杖を握りしめる。周囲を確認する余裕なんてなかった、目も耳も使い物にならなくて、杖の冷たい感触だけが、ぼくをぼくとして繋ぎ止めていた。
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