第四十三話 誰もいない支部・漆
「ワカバさん!青藍さんが……!」
「セイランナラダイジョウブ」
ぎゅ、と宥めるように抱き締められて少しだけ冷静になる。そうだ、どちらかといえばぼく達の方が状況としては悪い。今いる場所も分からなければ────ぼくはこの場において一番役に立てないのだから。ぼくが落ち着いたことを察知したのかワカバさんもぽふぽふと背を叩いてくれる。
放り出された先はあの歪んだ部屋……みたいな場所だった。違うのは壁が全包囲のっぺりとしたものになっていたことと、足元が何だか柔らかくなっていたこと。壁はともかく足元の変化は何でだろう、動きづらくはあるけど、目的が分からない。
「コレハオッテ。オマモリ」
「分かりました」
残されていた羽織を着る。ぼくには大きくて手も見えないな……ワカバさんはそんなぼくの様子を見て少しだけ微笑み、そして表情を引き締める。何もない壁をにらみつけるようにして、小さく呟いた。
「ジカンカセギデ、マニアウカ……?」
「……?」
時間稼ぎ、そうワカバさんは言った。この場で時間稼ぎをして……それで、どうするんだろう。この場に長居する意味はないように思えるけど……ワカバさんもここから出る方法がないのかな。特にこの場所は長居するものじゃない、って青藍さんも言っていたし。
「ナニカアッタラスグホウコクシテ」
「わ、分かりました」
やけに真剣な眼差しで念を押されて、思わず何度も頷いた。今のところあの知らない職員を追って入ったときのような沢山の気配は見当たらなくて、壁や床の異変にさえ目をつぶればただの部屋に思える。どうすればここから出られるだろう、そういえば、どうしてあの扉は歪んだままだったんだろうか。
「あの、ワカバさん」
「ドウシタ」
「どうしてこの部屋……ええと、この部屋の元の姿だけ、壁や扉の傷が直っていなかったんでしょうか」
「……ココデ、アランガアバレタカラダネ」
「アランさんが……」
そうか、オリジナルが暴れたのなら傷が直らなくても納得出来るかもしれない。……でも、そうなると逆に何があってこの支部がなくなったのかが分からなくなる。オリジナルがいて、支部内で戦闘になる程の怪異なんているんだ。……そんな強い怪異が出たのなら放棄エリアとして隔離するのはなんらおかしくはないかもしれない。
「……もしかして、あのとき見かけたのって……」
「エ?」
「ワカバさんと青藍さんが来る前に、この部屋に入っていく知らない人影があったんです」
何故か声に聞き覚えがあったけれど、多分気のせいだろう。あの時は職員だと思っていたけれど……ここに誘い込むための罠だったのかな。
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