第二十一話 過去を悼み、未来を祈る
勢いよく飛び出してったと思ったら出雲と遣霊抱えて戻ってきた。……遣霊ってそんなホイホイ現れるものなんだっけ、取り敢えずなつが騒がないように抑えながら藍沢先生の手伝いをする。
「おすなす?」
「たたた?」
「みぃ」
遣霊同士は興味があるのか双方首を傾げては傍にいる主人……出雲はまだ憔悴しきってて話が出来る精神状態にないから、傍にいたアランさんの袖を引いて問い掛けてる。合流したアランさんの遣霊、みうくんだけは特に混乱もなくアランさんに甘えているけど。
「あの……アランさん」
「はい」
「その子、出雲の遣霊……ですよね?」
「そうですね」
「……どうして」
思わず零れた言葉にハッとして口を押さえる。決して責めたいわけじゃないのに、今の発言はそう取られてもおかしくないものだった。慌てたような俺の仕草にアランさんは変わらない表情を少しだけ緩めて、穏やかな口調で俺の手に触れる。
「その感性は、とても大切なものです。人によっては遣霊の出現を吉兆と捉え、その切っ掛けを無視しますからね。……今回の件に関しても、私の手回しが足りなかった、それだけです」
「み」
みうくんの視線は不満を訴えているけれど、アランさんは素知らぬ顔。出雲の遣霊もちょっとだけ口を尖らせてアランさんを見ているけど、結局言葉にはならなかった。
「一先ず……ええと、これからどうするんですか」
「遣霊も現れ、魔術部門の方でも何やら不穏な動きがありました。魔術部門の方はまともな職員に上を挿げ替えて……東雲さんに関しては、本人の意向に沿いたいと思っています」
「とーと?」
「みゅ。みーみ」
みうくんと遣霊は何やら意思疎通が出来ているのか言葉を交わし合っている。なつはあんまり興味がないのか、それとも人見知りしてるだけなのか会話に混ざる気はないようだけど。
「ぁ、……、ん、……」
「はい」
きゅ、と掴まれていた服のしわが強くなる。出来るだけ穏やかに、多分刺激しないようにとアランさんは出雲へと声を返す。呼吸なのか言葉なのか分からない息遣いが数度返され、漸くぽつりと言葉が落ちる。
「じ、ぅ……に――――」
「……」
「――――」
「っ…………」
すとん、と瞼が落ちるのと同時、アランさんの呼吸が少しだけ乱れた。別にそれだけで体の動きや視線、表情に変化は現れなかったけど。……みうくんは気付いたんだろう、小さな手が頬を優しく撫でている。
「……このまま放置していたら手に傷がついてしまうかもしれませんね」
「とととたー」
「みゅ……」
「みう、少し俺は志葉さんの様子と、あと藍沢先生と話してきます」
「み……!」
「はい。宇月さんも何かあったら呼んでくださいね」
「あ、分かりました」
みうくんに帽子を預け、一旦退室したアランさん。皇は怪我の治療もそこそこに動き回ったからか藍沢先生が遣霊ごと連れて一緒に検査中。本当は出雲のことも検査したいらしいけど、多分年上相手に怯えるだろうから、と言っていた。……一体何があったんだろう、藍沢先生はなんとなく察しがついていたのか、動揺もなくさっさと治療準備に移ってたけど俺は全然分からない。
「……多分、苦しかったんだろうけどさ」
俺だってなつが現れた時、正気だったかって言われると頷けない。藍沢先生が物理的に苦難を取っ払ってくれたから、そこから連れ出してくれたからこうして助ける側に回っているけれど。……目元に掛かった髪をそっと払う。せめて今だけは、穏やかに眠れますように、と。ささやかな祝福で、限りない安寧を祈る。
呪われた力でも、今だけは。
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