夜が明けて、名前を呼んだ
やけに息苦しくて目が覚める。……寝る前に横に転がしておいた筈なんだが、何故かまた胸の上ですよすよと寝息をたてる遣霊がいた。コイツ俺をクッションかなにかと勘違いしてないか?
「おい重いんだが」
まだ眠いというように頭が押し付けられる。無理矢理身体を起こせば不満そうながらへばりついてきた。……一人で寝る気はないらしい。
「んなぁ……?んなん!」
「んん……おはよう、レン」
「だんななー!」
元気よく返事しているレンという遣霊。入江も目を擦りつつ起きたので互いにおはようと言い合う。……俺の遣霊は相変わらずへばりついたまま微睡んでいるが。
「おはようございます。食事を持ってきたので、食べながら少しお話しましょうか」
入室してきたのはアランさんとみう、それとへらへら笑う謎の職員?だった。自らをルコンと名乗った人物は、俺達の傍にいる遣霊を見てにこりと笑う。
「まずお二人には個別で試験を受けてもらいますが……恐らく遣霊がいるということも加味して重戦闘区域に配属となるでしょう。現在、重戦闘区域において”職員”と呼ばれるのは三名だけなので」
不思議な物言いだ。実力的にも職員が少ないのは理解出来るが、あの言い方だと職員以外がいる風にも思える。
「んなんな」
「おーちっちゃいのに沢山食べるねぇ」
「……」
「んぐ…………口に押し込むな」
レンが口いっぱいに頬張っているのを眺めていたら遣霊から口に何かを突っ込まれた。なんだこれ……ほんとになんだこれ。分からないまま口を動かす。
「みゅ、む」
「ゆっくり噛んで食べましょうね」
「みゅ……!」
アランさんの膝上で比較的ゆっくりと食べるみう、小さい故に頬いっぱいに含んでは入江に止められているレン。……俺の膝上にいる遣霊は今のところ俺の口に食べ物を突っ込んだ以外の行動がない。ギリギリ飲み物をちびちびとの……んでもいないな、無言で戻して満足そうにしている。
「おや?もしかして君、偏食するタイプかな?」
「?」
「しかも無口。これ俺じゃなくて魔術組呼ぶべきだったね?因みにフルーツとかなら食べる?それともスイーツ?」
ルコンさんがポンポンと机の上に置いたのはカットされたいくつかの果物と小さめのお菓子。じっと見つめること数秒、遣霊はおもむろに葡萄に手を伸ばしてはむはむと表面を食べ…………れずに舐めはじめた。
「食べるの下手か。ほら」
一粒を割って中身が見えるように渡す。一瞬首を傾げた遣霊だが、口許に寄せれば素直に口を開いた。
「おっ果物食べれるタイプじゃーん。じゃあ今度から君……のお名前なぁに?」
「?」
「ヘイこの子のご主人!この子のお名前は?」
「え」
唐突に話を振られて固まった。名前…………そもそもこの小さな生き物が俺の遣霊だという自覚すらなかったので考えてすらいない。そもそも遣霊って勝手に名前をつけて良いのか。
「因みにみうくんの名前の由来はしゃべれる単語からだぜ!安直だろ?」
「分かりやすいでしょう。リアムだって同じ理由です」
「……入江は?」
「ええと。……何か、気がついたら本人が名前をレンだと思ってた」
「だん!」
困った。この遣霊は喋らないし反応も分かりづらい。俺は自分のネーミングセンスを一切信用していないので、出来れば自分で名乗って欲しかったのだが。
「……」
「……」
じっと見つめられている。さっきまでは手に持った葡萄をもしゃもしゃと食べていただろう、まさかとは思うが一粒で満腹なのか?一応もう一粒割って口許に近付けてみたが、押し返されて丁寧に俺の口に捻じ込んできた。
「……ちょっと考えさせてください」
「ふふ、まぁ急に名前をつけて!って言われても困っちゃうよねぇ。でも流石に遣霊くんっていうのもややこしくて困っちまうな!」
至極真っ当な意見を出されて返答に窮する。本人も期待しているのか何なのか逃がしてはくれなさそうだし、思わず目についたものの名前を呼んでしまう。
「ぶどう……」
「……」
べし、と強めに胸元を叩かれる。流石に嫌か、ややこしいから俺としてもごめんこうむりたい。紫の瞳が不満そうに細められて、あからさまにどうにかならなかったのかと訴えてくる。
「むらさき……」
さっきより叩く力が強くなった。言いたいことは分かるがちょっと待ってほしい、こっちもなけなしのネーミングセンスをフル稼働させている真っ最中だ。
「…………スミレ」
「……」
叩かれなかった。こてんと首が傾げられて……まぁ良いかとでも言う風に葡萄を一粒口に入れられる。これは……認められたということで良いのだろうか。
「スミレくん?良い名前じゃ~ん」
良い名前、なのだろうか。本人が納得してるのだから良い名前なのかもしれないが。確かスミレって砂糖漬けがなかっただろうか、結局食べ物関連から離れてはいないが……気付いてないなら大丈夫だろう、多分。
「じゃあスミレくんの食事は果物メインにしておくぜっ!他にも食べれるものあったら報告よろしくぅ!」
明るいなこの人。あまりぐいぐいくるタイプの人は得意じゃないが、そういう感じではないのが不思議である。
「では、お二人の試験に関してはルコンに一任します。私も後から合流しますので」
「おっけーおっけー任せなさーい!あ、みうくんはどうする?こっちにいる?」
「み」
「あは、そうだよねぇ君だって甘えたいときはあるよな!じゃあアランあとでねー」
「ええ。……ルコン、くれぐれも目的を忘れて被害を増やさないように」
不安な言葉が今聞こえたんだが。とぼけた表情で笑うルコンさんを見て、俺と入江は揃って顔を見合わせた。




