第二十話 ”悪魔”・後編
扉がはじけ飛ぶような勢いで開き、そこから弾丸のようにアランさんが飛び出してくる。ちらりと俺に視線を向けてから前方へ、抱えられている出雲の腕の中から小さな頭がちょこんと見えた。
「アランさん!」
「志葉さん。……こちらの怪異は仕留めているようですね、流石です」
「あっちでも出たんですか」
「はい。二体ほど」
さらりと肯定したが、視界に映る怪異は一体のみ。まさかとは思うが、倒したんだろうか。出雲を抱えたままで、特に武器も所持せずに?
「そういえば言い忘れていましたが。遣霊が出現するときたまにあるんですよね」
「たまにある?」
「はい。遣霊が現れる前後に、主人の方が周囲に壊滅的な被害を与えてしまう事例が」
出雲の方を少し見る。多分、周囲の状況を把握出来るほど落ち着いてはいないだろう。遣霊の存在とアランさんの存在が辛うじて発狂を防いでいる。遣霊はにこにこと笑みを浮かべてこちらに手を振ってるのでそこまで危ない状態ではないのかもしれないけれど。
「……故意、なんですか?」
「いいえ?誰一人としてその被害を操作することなど出来ませんよ」
「たい!」
元気よく返事をした遣霊をちょっとだけつつく。スミレはどっちかというとふにふにとした感触だったが、この遣霊はどちらかというとぷにぷにしていた。
「さて。……多少作為的なものがあったとしても、この場で対峙している以上放置する選択肢はありません。手短に行きましょう」
「はい」
「では志葉さん、お二人をお願いしますね」
「えっ」
予想もしてなかった言葉に思わず困惑の声が漏れた。遣霊ごと出雲を預けられたから慌てて受け取る。……身長の割に軽い気がするな、不自然すぎるくらいに軽い。
「俺も戦えますけど」
「流石にその怪我で集団戦は無謀です」
ばっさりと断言されたのと同時に、怪異が複数体蠢いていることに気付く。……確かに、この量を仕留めるのは骨が折れるだろう。特に出雲や後ろにいる魔術部門の先輩方を守りながらとなれば余計に。だがそれはアランさんも同様で、一人よりは二人の方がまだ楽だと思うのだが。
「大丈夫ですよ。一応これでも俺重戦闘区域の職員なので」
俺の逡巡に気付いたのか、アランさんは愉しそうに口角を上げて返答する。……どちらにせよ出雲を一人にするわけにはいかないからこうするしかないのか。こくんと頷きを返して一歩下がればアランさんも満足そうに怪異の群れへと向き直る。
普段着けている布のないアランさんもまた細身。普段は布が風によって靡くからそこまで気にならないが、以前青藍さんが言っていた食事量の少なさを実感する。
「混合型なんて、そうポンポン現れるものでもないだろうに」
一度の跳躍で眼前へ。右手で頭を掴み、圧し折る勢いで力を籠める。人体で言う首の骨が折れるような音が鳴り、頭はそのまま塵を化した。一瞬の攻防に驚く暇もなく横から飛んできた触手を掴む。
掴んだその手を起点に触手の上へ、嫌がるように跳ね上がった触手に逆らうことなく上空へと移動。ちょうど頭上辺りに来た時点で手を離せば、重力に従って一撃で仕留める位置取りが完了する。
仕留め方に躊躇いがない。己の身体能力と恐らく特性だけですいすいと怪異を倒していく姿はそう定められたプログラムを実行しているような理路整然さも感じられる。集団の強みは数の有利における連携だと思うが、怪異から怪異へ、一撃で仕留めていくアランさんに対しては集団である意味がない。時折こちらに向かってこようとする怪異もいるが、目を離せばどうなるのかなど分かり切っている。
「ちゅちょーい!」
「……故意じゃないけど、作為的…………?」
怪異が群れることはない。これが眷属の類ならば別だが、そういう気配はなかった。出雲が引き寄せているとしてもそれは故意ではなく、されど……多分、この混合型ばかり集まってくるのは何らかの作為がある。混合型ばかり、何体も、何体も。
「……魔術部門、取り潰しになりそぉ…………」
「あの怪異さぁ、確か先輩方が言ってた……」
「俺ら関わってないのにクビになるのだけはやだぁー」
「でも止められなかったのは事実なんだよなァこれが」
「あんなん遠吠えだと思うじゃん!」
「アオーン!」
「誰が今遠吠えしろっつったよ」
思考の中に紛れ込んでくる会話。……どうやらあの怪異のことを魔術部門の先輩方……の、先輩方は知っていたらしい。正直あの会話が責任から逃れるための嘘だった場合も考慮しなければならないのは事実だが、……流石にそんなことはないと信じたい。
さくさくと怪異を仕留めていくアランさん。それを見つつも怯えたり嫌悪の表情を浮かべる訳でもなく、ただ純粋に観戦している魔術部門の先輩方。……何というか、強いな。警戒されるのも遠巻きにされるのも考慮していたのに、彼等はそういった感情を一切抱いていない。職員達よりも肝が据わってるのかもしれない。
「終わりましたよ」
傷ひとつなく、少しだけ髪に霜が降りた程度のアランさん。俺から出雲を受け取り直している姿にも違和感はないし、戦闘直後でも気配やテンションに変化はなく、遣霊にぺちぺちと頬を触られても過剰な反応はない。
「まずは藍沢先生のところに向かいましょう。この場にいる魔術部門職員の方々はほぼ被害者だとは思われますが、事情を聞く必要もありますので……っと、失礼」
いつの間にか近くに寄っていた青藍さんが何事かを囁いている気配だけが伝わってくる。数秒の沈黙、それから僅かな頷きを経てアランさんは再び顔を上げた。
「こちらには人を派遣します。まぁ殆ど伸びているので問題はないと思いますが……仮に難癖をつけられた場合、私の名前を出すように」
「はい」
代表してロイド職員先輩が頷けば、他の先輩方も一斉に同意を示す。それを確認してからアランさんは俺を促して医務室へと歩を進めた。
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