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秩序の天秤  作者: 霧科かしわ
第二章 この名を呼ぶのなら、貴方の剣となりましょう
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第十九話 ”悪魔”・中編

 取り敢えず突っかかってきた魔術職員の先輩方の先輩……?を取り押さえる。すかさず眼鏡をかけた先輩が地面から縄出して密閉した。……これちゃんと安全なんだろうか?

「取り敢えず一旦の安全はこれで確保……出来てますか?」

「あ、ハイ。多分大丈夫でーす」

 何故か少しだけ遠巻きにされてる……んだけど、それはそれとして感じるのが不快なものではなくどっちかといえばうぱー……遣霊達が遊んでほしくて遠目から窺ってるときのような、興味はあるけど遠慮してるような、そんな気配。

「……?」

「おいお前らー職員くんが困ってるでしょうが!解散!!!」

「おいおい分かってねぇなァ、ロォーイドくぅん?」

「見て鳥肌」

「あらま。皇くんは視線の多さってより好感情の濁流に困惑してるだけだと見たね!」

「な・る・ほ・ど……全員集合ォー!」

騒がし……賑やかな人たちだな。これだけの音圧があってもヘッドホンを押さえたくなるような刺激を感じないのは、配慮してもらっているから、という認識で良いんだろうか。

「見て奥さん魔力伝導率」

「誰が奥さんだうわたっか」

「ここまで高いと魔力量に補正かかっちまうなぁ……ちょっと計算してみるー」

「おい床に計算式を描くんじゃない」

「そうだよ熟練度:低って出てるからそこも考慮しないと」

「やべぇ床が足りねぇ!」

「見て見て皇くんこうやって床に模様が刻まれるんだよ!」

「失礼だな壁もだよ」

「どこに失礼要素があったよ今」

……何だろう、いっぱいうぱーがいるような感覚なんだが。今まで出会った人達の中で、微笑ましく見れるような歓談をしていたのはうぱー達くらいだった。アランさんやリアムさんは歓談するようなことがないし、シンさんやルコンさんは明るく振舞ってはいるけど会話相手がいつも大人しいし。

「仲良し……です、ね?」

「ほらやっぱ騒がしいって!」

「イェーイ俺らなっかよしー!!」

「肩組んで自撮りしちゃうもんねー!」

「皇くんも写真映ろうぜー!」

「え、いや俺は……」

「困らせるんじゃねー!俺も撮りたい!」

 賑やかな声の奔流の中に、一つの不穏。視線を向けて、意識を切り替える。俺の気配の変化に気付いたのか、眼鏡をかけた先輩とロイド職員、と呼ばれていた先輩が他の先輩方を促して視線とは反対側に下がってくれる。

 まずはナイフだけで良い。受け取った剣は強い力を持っているが故に一度しか使えない。いつだって情報は正確に、最後まで思考は止めず、自己の制御を手放さないように。

 現れたのは出雲を狙っていた怪異……と同じ存在だろうか。前回の怪異よりは一回りほど小さいが、相変わらず煙は周囲へと流れ出しておりひやりとした冷気が足元を這う。動けなくなる前にナイフを二本投擲、幽撃を纏ったナイフは、前回と同じ反応を見せた。

「……確か、前回は頭を飛ばしたんだっけ」

アランさんの剣を使ったからか、特性を使っていたはずなのにうっすらと記憶が残っている。刎ね飛ばした頭を瞬間的に塵一つ遺さず消すことで討伐としたのだから、今回もそれを踏襲すべきだろう。……問題は、それを行うのが非常に難しいということだが。

 辛うじてヘイトは俺に来ている。廊下よりは広いが、下手に動き回ると魔術職員の先輩方まで巻き込みかねない絶妙な状況。ナイフから双剣に変えて突撃、纏わりつく冷気が若干動きを鈍らせて、半歩分の距離を詰め切れない。

「くっ……」


「術式起動ォ!!!!」


 足元に気配、そして確かな感触。咄嗟の判断で更に一歩踏み出せば、急な加速に怪異は追いつけない。交差させた切っ先は首を狙うが、やはり前方からでは腕に阻まれ上手く刃が通らない。更に跳躍して背後を狙おうとすれば、今度は怪異を拘束するように光の鎖がいくつも現れる。

「駄目です一瞬で壊されるー!!」

「相手の魔術抵抗値はC!!」

「ざっけんな俺達と同等じゃねえか!!!」

「コンマ一秒でも長く止めろ!」

「皇職員くん急いでー!!!」

怪異に対する拘束としてはあまりにも心許ないが、俺が背後を取るための時間としては充分だった。見えない足場を踏みしめてもう一度切っ先を首に向ける。阻む腕のない状況下ではするりと刃が入り、そして刎ね飛ばした頭は急速に再生しようと傷口が蠢……いた瞬間、四角い結界のようなものが傷口を囲み、再生が停止した。

「ヒィ咄嗟に再生阻害張っちゃった!?」

「さっすがロイド!脊髄術式起動の腕は衰えちゃいないね!!!」

「多重起動無理ー!!!!!」

「足場は俺達がやるから再生阻害に集中しろ!」

「っていうか再生阻害いるの!?」

「分かんなァい!!!!」

 再生阻害、その言葉を聞いた瞬間ナイフに重幽撃を纏わせて、傷口から真っ直ぐに頭部を貫く。外装が硬すぎて核を一撃で屠れなかったのだから、断面からならばいとも簡単に核へと届く。とはいえ、再生速度が尋常じゃない速さだったので再生阻害がなければ厳しかったのも事実だが。

「……協力ありがとうございます」

俺の言葉に、目の前で上がった歓声以上の騒音が背後の扉から聞こえてきた。

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